第1章 おばさん、異世界へ行く⑥
第1章 業務スーパー帰りのおばさん、異世界へ行く⑥
やがて会話が途切れる。
洞窟は静かだった。
焚き火だけが小さく鳴っている。
私は天井を見上げた。
ふと。
地球の事を思い出す。
旦那。
まぁ。
何とかするだろう。
たぶん。
息子。
成人している。
でも家から通っている。
私は少し考え込む。
「ご飯とか大丈夫かな……」
じじ。
ばば。
叔父。
私はしばらく考え――
「……知らん」
小さく呟いた。
その時だった。
「あ」
私は静かに固まった。
家計カード。
こっちだった。
通帳と判子は家にある。
私は少し考える。
「まぁ、再発行するだろう」
旦那なら何とかする気がした。
たぶん。
どうせ一ヶ月に一回くらいしか帰ってこないし。
さらに思い出した。
スマホだった。
私は画面を見る。
当然圏外だった。
問題はそこじゃない。
私は静かに顔を覆う。
「課金……」
動画。
音楽。
ゲーム。
色々ある。
私はしばらく考え込み――
「私の通帳やべぇ」
もし帰れたら。
たぶん一文無しだった。
異世界なのに。
心配している事が妙に現実的だった。
私は深くため息を吐く。
だが。
異世界である。
魔法もあった。
なら。
転移者チートもあるかもしれない。
私は少し考え込む。
「鑑定」
無。
「アナライズ」
無。
「収納」
無。
「アイテムボックス」
無。
沈黙。
私は腕を組む。
「言い方か?」
異世界である。
言い方が違う可能性は十分ある。
私は真剣だった。
「精霊召喚」
無。
「水の精霊」
無。
「風の精霊」
無。
「土の精霊」
無。
その時だった。
犬がこちらを見た。
私は犬を見る。
犬も私を見る。
沈黙。
私は少し考え込み――
「いや、お前じゃない」
犬は欠伸をした。
私は深くため息を吐く。
少し寒かった。
私は腕を擦る。
「あー……毛布欲しい」
その時だった。
膝掛け。
車の後部座席。
二枚重ね。
ふかふか。
暖かい。
私は静かに固まる。
そういえば。
非常用持ち出しリュックも積んでいた。
人数分。
飲み物も。
充電器も。
色々入っていた。
全部。
車だった。
私はしばらく天井を見上げる。
そして。
ふと思い出した。
異世界スローライフ。
異世界キャンピングカー。
そんな感じのラノベがあった気がする。
私はゆっくり起き上がった。
「もしかして」
スキルがあるかもしれない。
私は真顔になる。
まずは知っている名前からだった。
「キャンピングカー!」
無。
「モーターホーム!」
無。
「RV!」
無。
私は腕を組む。
「何でだ」
少し考える。
そしてさらに試す。
「ハイエース!」
無。
「キャラバン!」
無。
「デリカ!」
無。
「ランクル!」
無。
「ジムニー!」
無。
沈黙。
私は静かに固まる。
そして。
ゆっくり顔を上げた。
「私の車……」
私は右手を前へ出した。
「私の車ぁぁぁ!!」
何も起きなかった。
犬は寝た。
妹は寝返りを打った。
男の子はしばらく私を見つめ――
小さく妹へ言った。
「あんまり近付くな」
「?」
「変だから」
私は聞こえていなかった。
チート。
来ない。
まだ来ない。
私は少し考え込む。
「年齢かな」
異世界転移といえば。
高校生。
大学生。
若者。
そんなイメージがある。
私はしばらく考える。
だが。
ふと思い直した。
おっさんは転移する。
おっさんは追放される。
おっさんは辺境へ行く。
おっさんはスローライフする。
最近はそういう時代だった。
私は真顔で頷く。
ワンチャンある。
そう結論付けて。
私は段ボールベッドの上へ寝転がった。
異世界生活一日目は。
そんな感じで終わった。




