閑話 櫛
閑話 櫛
私は町で櫛を買った。
高い物ではない。
木の櫛だった。
十分だった。
洞窟へ戻る。
妹が来た。
犬も来た。
兄もいた。
私は櫛を見せる。
妹が首を傾げた。
私は言った。
「こっちおいで」
妹は素直に来た。
私は座る。
妹を前へ座らせる。
そして髪を梳かした。
さら。
さら。
少し引っ掛かる。
かなり引っ掛かる。
妹は我慢していた。
偉かった。
私は少し慎重になる。
さら。
さら。
少しずつ髪が整っていく。
私は少し考える。
そして思った。
結びたかった。
一度やってみたかった。
息子だけだったから。
機会が無かった。
私はゴムを取り出す。
まずは二つに分ける。
ツインテールだった。
右を結ぶ。
左を結ぶ。
私は見る。
右を見る。
左を見る。
もう一度見る。
高さが違った。
……。
私はやり直す。
右をほどく。
結び直す。
今度は左が違った。
難しい……。
兄が見ていた。
犬も見ていた。
私は諦めない。
もう一度やる。
そして。
ようやく揃った。
私は満足する。
妹も嬉しそうだ。
だが。
数歩歩いた瞬間。
片方が下がった。
何故だろう。
次は編み込みだった。
私は少し考える。
記憶を辿る。
やり方は知っている。
多分。
私は髪を分ける。
編む。
編む。
さらに編む。
何か違った。
私は止まる。
ほどく。
もう一度やる。
やっぱり違った。
主人公は思った。
難しかった。
兄は途中から石に座っていた。
犬は寝ていた。
妹だけが付き合ってくれている。
優しかった。
私は最後に諦めた。
三つ編みだった。
これは出来た。
何故なら。
昔やった事があった。
私は丁寧に編む。
最後を結ぶ。
完成だった。
妹は髪を触る。
少し嬉しそうだった。
私は満足する。
一度やってみたかった。
兄はしばらく妹を見ていた。
やがて小さく言う。
「似合う」
妹は笑った。
私は頷く。
その通りだった。
世の中には編み込みという高度な技術が存在する。
もちろん。
知っているが。
出来なかった。




