第12章 ➂
第12章③ シュッ!
私は紙を見る。
炭を見る。
そして職人を見る。
職人も見ていた。
私は頷く。
伝わるらしい。
良かった。
私は紙へ描き始める。
棒を描く。
刃を描く。
カルト芋を描く。
そして。
矢印を描く。
職人は見ていた。
かなり真面目だった。
私は説明する。
「こう持つ」
職人は頷く。
私は続ける。
「こうやる」
職人は頷く。
私は最後に言った。
「シュッ!」
職人は止まった。
私はもう一度言う。
「シュッ!」
さらに言う。
「シュッ!」
職人は聞いた。
「何がシュッなんだ」
私は答える。
「皮」
職人は黙った。
私は続ける。
「こうやると」
シュッ!
「皮が」
シュッ!
「剥ける」
シュッ!
主人公は知らない。
人類は古来より言語による意思疎通を行ってきた。
言葉を使う。
説明をする。
相手へ伝える。
そのために発展してきたのである。
もちろん。
主人公は知らない。
知っているのは。
「こう」
と。
「シュッ」
だけだった。
職人はしばらく黙っていた。
やがて紙を見る。
もう一度見る。
そして言った。
「刃だな」
私は頷く。
その通りだった。
職人は続ける。
「刃は鍛冶屋だ」
私は止まる。
数秒。
確かに。
刃だった。
職人は紙を持つ。
「鍛冶屋へ回す」
私は頷く。
良かった。
伝わったらしい。
多分。
それから数日後だった。
私は再び店へ来ていた。
職人は棚から道具を取り出す。
木の持ち手。
小さな刃。
私は見る。
かなり見る。
そして受け取った。
主人公は思った。
アレだった。
私は少し感動する。
かなり感動する。
職人は言った。
「試すか」
私は頷く。
カルト芋を持つ。
そして。
シュッ。
皮が剥けた。
私は止まる。
もう一度やる。
シュッ。
さらにやる。
シュッ。
速かった。
うん。
文明だ。
皮引きは古くから使われてきた生活道具である。
単純な構造。
だが。
長い年月を生き残った道具には理由がある。
使いやすい。
速い。
壊れにくい。
それだけで十分なのだ。
主人公は知らない。
知っているのは。
シュッと剥ける事だけである。
私はカルト芋を見る。
皮を見る。
そして道具を見る。
もう一度見る。
主人公は思った。
最高だった。
職人はそんな私を見ていた。
やがて小さく呟く。
「最初から描けば良かったんだ」
私は頷いた。
その通りだった。




