第12章 ②
第12章② アレ
私は木工職人の店へ向かった。
目的は決まっていた。
アレだ。
職人は木を削っていた。
私は言う。
「アレ作って」
職人は止まった。
「何だ」
私は少し考える。
困った。
名前を知らない。
私は答えた。
「アレ」
職人は黙った。
やはり伝わらないらしい。
残念だ。
職人は聞く。
「どんな物だ」
私は少し考える。
そして答えた。
「皮を剥く」
職人は頷いた。
「ナイフか」
違う。
私は首を振る。
「違う」
「包丁か」
違う。
私は首を振る。
「違う」
職人は腕を組む。
私も考える。
どちらも困っていた。
やがて。
私は両手を出した。
「これくらい」
職人は聞く。
「何が」
私は少し考える。
そして答えた。
「長さ」
職人は頷く。
少しだけ。
私は続けた。
「持つ所はこれくらい」
職人は聞く。
「何の」
私は少し考える。
困った。
確かに何の長さだろう。
私は続けた。
「厚みはこれくらい」
職人は天を仰いだ。
私はさらに説明する。
「こう持って」
職人は見る。
私は手を動かす。
「こうやる」
そして言った。
「シュッ!」
職人は止まった。
私はもう一度やる。
「シュッ!」
さらにやる。
「シュッ!」
職人は聞いた。
「何がシュッなんだ」
私は答える。
「皮」
職人は黙った。
私は続ける。
「こうやると」
シュッ!
「皮が」
シュッ!
「剥ける」
シュッ!
皮引きは古くから使われてきた生活道具である。
木製の柄。
小さな刃。
構造は単純だ。
だが。
単純だからこそ優れている。
大量の野菜を扱う家庭では重宝された。
包丁より安全。
作業速度も速い。
後の時代には改良が進み。
金属製やT字型の物も登場する。
もっとも。
主人公は知らない。
知っているのは。
祖母が使っていた事だけである。
職人はしばらく黙っていた。
やがて。
机の上から紙を取り出した。
炭も取り出した。
そして私へ渡す。
「描け」
私は止まる。
数秒。
止まる。
最初からそうすれば良かった。




