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閑話 下町のドン

閑話 下町のドン


屋台の片付けは終わっていた。


鍋も洗った。


油も片付けた。


今日は良く売れた。


おばちゃんは小さく息を吐く。


空を見る。


夕方だった。


少し赤い。


あの子も帰った。


串焼きと菓子を抱えて。


思い出したように笑う。


変な子だった。


初めて見た時は旅人だと思った。


時々いる。


遠くから来る者。


王都から。


港町から。


もっと遠くから。


あの子もそうだと思っていた。


だが。


少し違った。


変な物を知っている。


変な物を作る。


なのに。


商人ではない。


金儲けにも興味が無い。


売れた金を見ても。


嬉しそうだったのは少しだけ。


その後は。


「今日はご飯作りたくない」


である。


おばちゃんは吹き出した。


本当に変だ。


そして。


少しだけ懐かしかった。


昔だった。


まだおばちゃんが子供だった頃。


町へ一人の旅人が来た。


男だったか。


女だったか。


もう覚えていない。


でも。


変な人だった。


今思えば。


あの子によく似ていた。


変な事を知っていた。


変な物を作った。


皆を驚かせた。


そして。


時々。


寂しそうだった。


ある日。


おばちゃんは聞いた事がある。


「どこから来たの?」


旅人は少し困った顔をした。


そして笑った。


「遠い所だよ」


おばちゃんは頷いた。


そういうものかと思った。


今なら少し分かる。


あの人は。


本当に遠い所から来ていたのだろう。


やがて旅人は居なくなった。


何処へ行ったのか。


誰も知らない。


ただ。


少しだけ寂しかった。


おばちゃんは空を見上げる。


夕焼けはもう薄くなっていた。


そして思い出す。


串焼きを抱えて帰る後ろ姿。


焼き菓子を買う姿。


兄妹の話をする時の顔。


おばちゃんは小さく笑う。


「あの子も遠い所から来たのかねぇ」


誰も答えない。


おばちゃんは屋台を押す。


ゆっくり歩く。


そして小さく呟いた。


「今度は長く居ると良いねぇ」


夕暮れの町に。


その声だけが静かに消えた。

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