第50章 ②
昼前。
洗濯物を取り込んでいた。
孫はイナと遊んでいる。
時々笑い声が聞こえる。
静かになった。
手を止めた。
まただ。
最近、この静かさが一番信用できない。
家の中を見る。
いない。
「どこ?」
返事がない。
イナもいない。
玄関を見る。
戸が少し開いていた。
外へ出る。
いた。
孫が道の方へ歩いている。
隣にイナ。
「止まりなさい」
自分でも分かるくらい、声が変わった。
孫が止まる。
振り返った。
「どこ行くの?」
「むこう」
「一人で?」
「イナいるよ」
「イナがいても駄目」
孫が少し考える。
「ちょっとだけ」
「駄目」
「すぐかえる」
「駄目」
また歩こうとした。
「止まりなさい」
今度は動かなかった。
私は孫のところまで行った。
しゃがむ。
「一人で外へ出たら駄目って言ったよね」
黙っている。
「聞いてる?」
「……きいてる」
「どうして出たの?」
「イナといっしょだから」
「イナがいても駄目」
「でも」
「でもじゃない」
孫の顔が歪んだ。
泣きそうだ。
でも、ここは駄目だ。
「あなたがいなくなったら、みんな探すの。道には馬車も通る。転ぶかもしれない。知らないところまで行ったら、帰れなくなるかもしれない」
「イナいるもん」
「イナがいても駄目」
繰り返す。
ここは譲らない。
「外へ行きたい時は、大人に言う。分かった?」
返事がない。
「分かった?」
「……わかった」
「聞こえない」
「わかった!」
泣いた。
大きな声で。
泣きながら家へ戻る。
イナもついていく。
イナ。
おまえも止めろ。
無理か。
犬だし。
多分。
しばらくしてサラが帰ってきた。
玄関を開けた途端、孫が走っていった。
「おかあさーん!」
泣いている。
サラが驚く。
「どうしたの?」
「おばさんが、おこったぁ!」
私を見る。
「何したの?」
「勝手に外へ出た」
サラの顔が変わった。
娘を見る。
「一人で?」
「イナいた」
「イナがいても駄目でしょ」
援軍は来なかった。
孫がさらに泣いた。
「ちゃんとおばさんに言った?」
首を振る。
「じゃあ怒られるよ」
その通り。
昼を過ぎてニコが帰ってきた。
また報告された。
「おばさんに怒られた」
「何したの?」
「そといった」
「一人で?」
「イナと」
「駄目だね」
また援軍は来なかった。
夕方。
ルークまで帰ってきた。
三回目だった。
「おばさん、おこった」
「何した?」
「そと」
「一人で?」
「イナと!」
「それは怒られる」
全滅だった。
孫は不満そうだった。
でも、もう泣かなかった。
夕飯を食べる。
いつもより少し静かだ。
私とはあまり目を合わせない。
別にいい。
怒ったからといって、すぐ機嫌を取る必要はない。
駄目なものは駄目だ。
夜。
編み物をしていると、小さな足音がした。
孫が来た。
私の前に立つ。
「何?」
黙っている。
少し待つ。
「……おばさん」
「うん」
「だっこ」
編み物を置いた。
「はいはい」
抱き上げる。
もう前より重い。
膝の上に乗せる。
孫が私にくっついた。
何も言わない。
私も言わない。
昼の話をもう一度する必要はない。
分かったなら、それでいい。
しばらくすると、孫が小さな声で言った。
「もう、ひとりでいかない」
「うん」
それで終わり。
私は孫の頭を撫でた。
明日は多分、また別のことで怒る。
子供なんて、そんなものだ。




