第49章 ⑨
白髪は増えた。
だからといって、何か変わるわけではない。
眼鏡をかけて編み物をする。
洗濯をする。
ご飯を作る。
孫に眼鏡を取られないようにする。
いつも通りだ。
ある日。
引き出しを整理していた。
奥から缶が出てきた。
ネズミの国の缶。
久しぶりに開ける。
硬貨が入っている。
百円玉。
五十円玉。
五百円玉。
昔より随分減った。
当たり前だ。
お守りに使った。
子供たちに。
孫たちに。
一枚ずつ。
指で百円玉を動かす。
そこで気づいた。
「あ」
一人。
まだ渡していない。
サラとニコの娘。
忘れていた。
「まずい」
別に期限があるわけではない。
でも、他の孫たちは持っている。
この子だけない。
それは駄目だ。
私は百円玉を一枚取り出した。
まだ残っている。
よかった。
夕方。
サラが帰ってきた。
「これ、あの子の分にするから」
百円玉を見せる。
サラがすぐに分かった。
「お守り?」
「そう。まだ作ってなかった」
「そういえば、ないね」
やっぱり。
ニコも帰ってきた。
話す。
「枠、頼める?」
「前と同じところ?」
「うん」
百円玉を渡す。
ニコが表と裏を見る。
「字は?」
そこだ。
今までの孫にも、それぞれ一文字を入れている。
この子にも何か一つ。
考える。
まだ小さい。
どんな子になるか分からない。
いや。
少しは分かる。
椅子を運ぶ。
棚へ登る。
眼鏡を狙う。
よく考える。
すぐ実行する。
「知?」
言ってみた。
ニコが少し笑った。
「それでいいの?」
「何で?」
「もっと賢くなりそう」
確かに。
困る。
サラも笑っている。
「じゃあ何にする?」
考える。
賢くなくていい、とは思わない。
頭がいいのは悪いことではない。
使い方だ。
ニコにも、昔似たようなことを考えた。
ニコには道。
その賢さを、なるべく正しい道に使いなさい。
この子は。
「結」
「結?」
「人と人を結ぶの、結」
ニコが百円玉を見る。
サラも見る。
「いいね」
「じゃあ、それ」
決まった。
数日後。
枠ができた。
小さな百円玉。
裏には、結。
紐も作った。
まだ首には掛けない。
何でも口に入れるし、引っ張る。
危ない。
今はサラに預けておく。
「大きくなったら渡して」
「うん」
サラが受け取った。
孫は何をしているのか分からない顔で見ている。
「あなたのだよ」
言ってみる。
手を伸ばした。
サラが高く上げる。
「まだ駄目」
孫が背伸びをする。
届かない。
椅子を見た。
「やめなさい」
全員で言った。
孫が止まった。
少し考えている。
やっぱり。
知じゃなくてよかったかもしれない。
私は笑った。
これで五つ。
カイルの子供たちに三つ。
ミラの子に一つ。
そして、この子に一つ。
私が遠いところから持ってきた百円玉が、この世界で五人の子供のお守りになった。
まだ缶の中には、硬貨が残っている。
使う予定はない。
でも。
捨てる理由もない。
私は缶を閉じた。
また引き出しの奥へしまった。




