第49章 ⑧
季節が変わった。
少し寒くなった。
朝、窓を開けると空気が冷たい。
そろそろ厚い服を出した方がいい。
サラは畑へ行く時間が少し遅くなった。
ニコは変わらない。
ルークも変わらない。
孫も変わらない。
相変わらず、何かを見つけては触る。
最近は眼鏡を入れた箱を開けようとしている。
まだ開けられていない。
頑張らなくていい。
朝。
顔を洗っていた。
髪をまとめる。
鏡を見る。
何か白い。
取ろうとした。
取れない。
髪だった。
「……白髪」
一本。
いや。
よく見る。
眼鏡をかける。
増えた。
「いつの間に」
前からあったと思う。
気にして見ていなかっただけだ。
髪を持ち上げる。
中にもある。
結構ある。
「おばさん、何してるの?」
サラが来た。
「白髪見てる」
サラが近づく。
「どこ?」
「ここ」
「ほんとだ」
何だ、その珍しいものを見つけた顔は。
「抜く?」
「抜かないよ」
全部抜いたら、そのうち髪が減る。
別に白くても困らない。
「染めないの?」
「面倒」
この世界にも髪を染めるものはある。
ミラなら詳しいだろう。
でも、いい。
誰に見せるわけでもない。
「増えたね」
サラが言った。
「歳だからね」
「前はあんまりなかったよ」
「前より歳取ったからね」
当たり前のことを言った。
サラが黙った。
まただ。
老眼の時と同じ顔。
「何?」
「何でもない」
「白髪くらい生えるよ」
「分かってる」
本当に分かっているのだろうか。
私は髪をまとめた。
終わり。
朝ご飯を作る。
しばらくしてニコが来た。
私を見る。
「白髪増えた?」
サラ。
言ったな。
「増えたらしいよ」
ニコが見る。
「本当だ」
「そんなに見なくていいよ」
今度はルークまで来た。
見る。
「増えたね」
「全員で確認しなくていい!」
何なんだ。
珍獣じゃない。
三人とも、自分たちは昔よりずっと大きくなった。
三歳だった子が二十一を過ぎた。
ルークだって大人になった。
それなのに、私だけ変わらないと思っていたのだろうか。
「そのうち全部白くなるかもね」
言ったら。
三人とも黙った。
「何で黙るの」
「別に」
ルークが答える。
変なの。
朝ご飯を食べる。
いつも通り。
途中で孫が私の横へ来た。
私の髪を見る。
手を伸ばす。
「しろ」
「そう。白いね」
一本つまんだ。
「抜かないでよ」
引っ張った。
「痛い!」
手を捕まえる。
孫が笑った。
こら。
「これは付いてるの」
「とれない?」
「取らなくていいの」
不思議そうに見ている。
そのうち、この子にとっては最初から白髪のおばさんになるのかもしれない。
それもいい。
私は孫の手を離した。
「ほら。ご飯食べな」
孫が席へ戻る。
私は自分の髪を触った。
一本。
二本。
多分、もっとある。
まあいい。
眼鏡もある。
白髪もある。
それでも今日も、やることは同じだ。
朝ご飯の後は洗濯。
それが終わったら編み物。
昼には買い物へ行く。
忙しい。
白髪を気にしている暇はなかった。




