第49章 ⑦
孫は、よく喋るようになった。
最初は単語だけだった。
イナ。
いも。
みず。
だっこ。
そのうち、少しずつ言葉が増えた。
ある日。
台所にいると、後ろから呼ばれた。
「おばさん」
振り向く。
孫がいる。
「何?」
「おみず」
「はいはい」
水を入れて渡す。
両手で持って飲む。
そこで気づいた。
今。
何て呼んだ?
「もう一回呼んで」
「おばさん」
やっぱり。
サラを見る。
サラも聞いていたらしい。
「おばさん?」
「うん」
「おばあちゃんじゃなくて?」
孫が私を見る。
「おばさん」
「まあ、いいんじゃない?」
呼ばれているのは私だ。
間違ってはいない。
サラは少し考えている。
「でも、おばさんのおばさんじゃないよ?」
ややこしい。
「この家でみんな私をおばさんって呼ぶからでしょ」
「そっか」
多分、それだけだ。
ニコが帰ってきたので話した。
「覚えたんだ」
「みたい」
ニコが娘を呼ぶ。
「この人、誰?」
私を指す。
孫は即答した。
「おばさん」
ニコが笑った。
「完全に覚えてるね」
「あなたたちがそう呼ぶからだよ」
「今さら変える?」
「別にいいよ」
二十年近く、おばさんでやってきた。
今さら、おばあちゃんに変わっても落ち着かない。
その数日後。
カイルが子供たちを連れてきた。
三人いる。
賑やかだ。
ミラも子供を連れてきた。
もっと賑やかになった。
その中で、一人が私を呼ぶ。
「おばさん」
「何?」
別の子も呼ぶ。
「おばさん」
「はいはい」
サラとニコの娘も呼ぶ。
「おばさん!」
「いるよ」
あちこちから呼ばれる。
全員、おばさん。
誰一人、おばあちゃんとは呼ばない。
何だこれ。
ルークが帰ってきた。
家の中を見る。
子供だらけだ。
「すごいね」
「何が?」
「おばさんがいっぱい呼ばれてる」
本当に。
一人が呼ぶ。
返事をする。
別の子が呼ぶ。
また返事をする。
忙しい。
「おばさん!」
「はい!」
「おばさん!」
「何!」
「おばさん!」
「用事がある人だけ呼んで!」
笑い声が上がった。
遊ばれている。
私はため息をついた。
でも。
悪くない。
最初にこの世界へ来た時から、私はおばさんだった。
子供たちが大きくなっても、おばさんだった。
その子供たちに子供ができても。
やっぱり、おばさんらしい。
まあいい。
今さら変える必要もない。
「おばさん!」
また呼ばれた。
「今度は何!」
「いも!」
カルト芋だった。
それなら仕方ない。
私は立ち上がった。




