第49章 ⑥
眼鏡は棚の上に置くことにした。
ここなら届かない。
孫が手を伸ばしても無理。
背伸びしても無理。
確認した。
大丈夫。
それから数日。
何も起きなかった。
やっぱり大丈夫だった。
私は安心していた。
昼。
台所で夕飯の下ごしらえをしていた。
少し静かだ。
静か。
嫌な感じがする。
子供がいる家で、急に静かになる時は大体ろくなことをしていない。
見に行った。
いた。
椅子を押している。
「何してるの?」
止まった。
私を見る。
椅子を見る。
棚を見る。
私も棚を見る。
眼鏡がある。
「駄目」
孫が椅子を押した。
「駄目って言ったでしょ」
また押した。
少しずつ棚へ近づいていく。
私は見ていた。
どこまでやるのか、少し気になった。
椅子が棚の前まで来た。
登る。
立つ。
手を伸ばす。
届いた。
眼鏡を取った。
「届いた!」
喜んでいる。
「届いたね」
すごい。
じゃない。
「返して」
眼鏡を回収した。
孫は不満そうだった。
「これは遊ぶものじゃないよ」
「でも、とった」
「取れたね」
「じぶんで」
「そうだね」
そこは認める。
椅子を持ってきて。
登って。
取った。
ちゃんと考えている。
困る。
夕方。
ニコが帰ってきた。
話した。
「椅子を?」
「自分で持ってきた」
ニコが娘を見る。
「どうして椅子を持ってきたの?」
「とどかないから」
「それで椅子を使ったの?」
「うん」
ニコが少し考えた。
「ちゃんと考えたんだね」
「感心するところじゃないよ」
「あ」
遅い。
サラも帰ってきた。
話を聞く。
「一人で椅子持ってきたの?」
「うん!」
「すごいね」
「褒めるな」
「あ」
おまえもか。
二人を見る。
娘を見る。
もう一度二人を見る。
「誰に似たの、この子」
ニコがサラを見る。
サラがニコを見る。
私は分かった。
「……両方か」
最悪だ。
頭を使って方法を考える。
思いついたら、すぐやる。
しかも諦めない。
棚の上なら大丈夫だと思った私が甘かった。
ルークが帰ってきた。
事情を聞いた。
「もっと高いところに置けば?」
「次は何を持ってくると思う?」
ルークが黙った。
そういうことだ。
高くすれば安全とは限らない。
登るものが増えるだけかもしれない。
「じゃあ、どうするの?」
サラが聞いた。
考える。
眼鏡を見る。
孫を見る。
「箱に入れる」
「箱?」
「開けられないやつ」
ニコが頷いた。
「それがいいかも」
今度こそ大丈夫だ。
多分。
孫が私たちの話を聞いていた。
じっと。
「……聞いてないよね?」
笑った。
嫌な予感しかしなかった。




