第49章 ③
医者に教えてもらった店は、思っていたより小さかった。
表に眼鏡が並んでいるわけでもない。
看板を確認する。
多分、ここ。
扉を開けた。
「いらっしゃいませ」
奥から男の人が出てきた。
私より少し年上に見える。
その人も眼鏡をかけていた。
ちょっと安心した。
「近くを見る眼鏡が欲しいんだけど」
「初めてですか?」
「初めて」
店の人は頷いて、椅子を勧めてくれた。
机の上に紙が置かれる。
細かい文字が並んでいる。
「これを読んでください」
近い。
「見えない」
「では、この辺りなら?」
少し離される。
「見える」
「なるほど」
今度は眼鏡を渡された。
かける。
紙を見る。
「……見える」
すごい。
さっきまでぼやけていた文字が見える。
「もう少し強いものも試しますか?」
「試す」
別の眼鏡をかける。
見える。
でも、何か変だ。
「これは疲れそう」
「では、先ほどの方がいいでしょう」
戻す。
うん。
こっち。
「これがいい」
決まった。
早い。
店の人が少し笑った。
「枠はどうしますか?」
「枠?」
いくつか出てきた。
細いもの。
少し太いもの。
丸いもの。
横に長いもの。
そんなにあるのか。
一つ持つ。
「これは?」
値段を聞いた。
戻した。
高い。
別のものを持つ。
「これは?」
さっきより安い。
「丈夫?」
「普通に使う分には」
「これで」
決まった。
「もう少し選ばなくていいんですか?」
「見えて、丈夫ならいい」
顔に似合うかどうかは、それほど重要ではない。
編み目が見えればいい。
出来上がるまで少しかかるらしい。
店の中を見ながら待つ。
眼鏡は思ったより色々あった。
本を読む人。
細かい仕事をする人。
年を取って近くが見えにくくなった人。
そういう人が使うらしい。
珍しいものではない。
ただ、安いものでもない。
昔だったら諦めたかもしれない。
カルト芋を何個買えるか。
小麦粉ならどのくらいか。
そんなことを考えたと思う。
今も少し考えた。
でも買う。
必要だから。
しばらくして、眼鏡ができた。
かける。
紙を見る。
見える。
細かい文字も見える。
「いいね」
店を出る。
途中で糸を売っている店が目に入った。
少し考える。
入った。
細い糸を買った。
家へ帰る。
サラがいた。
私を見る。
「買ったの?」
「買った」
「見える?」
私は眼鏡をかけた。
編みかけを持つ。
見る。
見える。
編み目がちゃんと見える。
「見える」
「よかった」
サラが笑った。
そこへルークが来た。
私を見る。
止まった。
「……何?」
「眼鏡」
「見れば分かるよ」
ニコも帰ってきた。
私を見る。
「買ったんだ」
「買った」
「似合ってるよ」
そうなのか。
別にいいけど。
私は編み物を続ける。
見える。
ちゃんと見える。
これなら細い糸も使える。
異世界に来て。
老眼になって。
眼鏡を買った。
何だか普通だ。
まあ。
歳を取るというのは、こういうものなのかもしれない。
私は新しく買った細い糸を取り出した。
まだまだ編める。




