第48章 ⑩
それから何か月か経った。
サラのお腹は、すっかり大きくなった。
畑には行っていない。
正確には、行こうとした。
何度か。
その度に止められた。
私に。
ニコに。
ルークに。
最後には医者にも止められた。
さすがに諦めた。
家の中では動いている。
洗濯物を畳んだり、野菜を切ったり。
じっとしているのは無理らしい。
それくらいならいい。
重いものを持とうとすると、誰かが取る。
最初は不満そうだったけれど、最近は素直に渡すようになった。
慣れたのだと思う。
そして、その日は来た。
朝からサラの様子がおかしかった。
痛い。
治まる。
また痛い。
時間を見た。
少し待つ。
また来る。
「ニコ」
呼ぶと、すぐに来た。
「医者呼んで」
顔色が変わった。
「もう?」
「多分」
ニコが走っていった。
サラは椅子に座っている。
「大丈夫?」
「痛い」
「そうだね」
それしか言えない。
代わってやることもできない。
しばらくして医者が来た。
一緒に手伝う女性も来た。
そこからは任せる。
私は必要なものを運んだ。
湯。
布。
水。
言われたものを用意する。
ニコは落ち着かない。
座る。
立つ。
歩く。
また座る。
「邪魔」
とうとう言った。
「何かすることない?」
「今はない」
「でも」
「呼ばれたら動きな」
ニコが座った。
十秒くらいで立った。
駄目だ。
ルークも帰ってきた。
事情を聞いて、ニコの隣に座る。
少しして立った。
同じだった。
「おまえたち、外行ってきたら?」
「嫌だ」
二人同時だった。
そう。
好きにしな。
私は台所へ行った。
何かしていないと落ち着かない。
スープを作る。
今すぐ誰かが食べるわけではない。
でも、後で食べる。
多分。
サラの声が聞こえる。
手が止まりそうになる。
止めない。
鍋を混ぜる。
大丈夫。
医者がいる。
手伝う人もいる。
私が中へ入っても役には立たない。
分かっている。
それでも気になる。
赤ちゃんも。
でも。
まずサラだ。
それだけを考えた。
どのくらい経ったのか分からない。
長かった。
外はもう暗くなっていた。
ニコはほとんど喋らなくなった。
ルークも静かだった。
やがて。
赤ちゃんの声がした。
泣いている。
元気な声だった。
ニコが立ち上がる。
ルークも立つ。
私も立った。
扉が開いた。
医者が出てきた。
「生まれましたよ」
「サラは?」
自分でも驚くくらい早く聞いた。
「大丈夫です。母子ともに無事ですよ」
息を吐いた。
よかった。
本当に。
それでやっと、赤ちゃんのことを考えられた。
「女の子です」
女の子。
また家族が増えた。
中へ入る。
サラは疲れた顔をしていた。
でも、笑っている。
その隣に、小さな赤ちゃんがいる。
本当に小さい。
「小さいね」
サラが笑った。
「赤ちゃんだからね」
そうだった。
ニコがサラの横へ行く。
何か言おうとしている。
でも、言葉が出ないらしい。
結局。
「大丈夫?」
それだけだった。
「大丈夫」
サラが答える。
ニコが泣いた。
少しだけ。
私は見なかったことにした。
ルークもサラの顔を見て、それから赤ちゃんを見る。
「……小さい」
同じことを言った。
「赤ちゃんだから」
今度は私が言った。
しばらくして、ニコが赤ちゃんを抱いた。
固い。
体が。
「もっと力抜いて」
「無理」
「落とさないでよ」
「分かってる!」
余計に固くなった。
ルークが横から覗く。
「俺が抱く」
「お兄ちゃんは後」
サラに言われた。
「何で?」
「ニコがお父さんだから」
ルークが黙った。
その顔がおかしくて、少し笑った。
サラも笑う。
ニコは笑う余裕がない。
赤ちゃんを抱くので精一杯だ。
私は少し離れて、その様子を見る。
三歳だったサラ。
三歳だったニコ。
二人とも、小さかった。
今は二人の間に、もっと小さい子がいる。
変な感じだ。
でも。
悪くない。
「おばさんも抱く?」
サラが聞いた。
「抱く」
ニコから受け取る。
軽い。
温かい。
小さな手が動いた。
指も小さい。
顔を見る。
誰に似ているのかは、まだ分からない。
「よろしくね」
小さな声で言った。
返事はない。
当たり前だ。
今日から、また一人増えた。
この家は、ますます静かになりそうにない。
それでいい。




