第48章 ⑨
結婚式の日になった。
朝から忙しい。
私が。
何でだろう。
主役ではないはずなのに。
「おばさん、まだ着替えてないの?」
ミラに言われた。
「今から」
「髪もやるよ」
「髪も?」
「やる」
面倒だ。
逃げようと思ったけれど、サラに見つかった。
「駄目だよ」
まだ何も言っていない。
「逃げようとしたでしょ」
「してないよ」
「した顔だった」
どんな顔だ。
結局、ミラに着替えさせられ、髪まで整えられた。
鏡を見る。
知らないおばさんがいる。
いや、私だけど。
「これ、私?」
「おばさんだよ」
サラが笑った。
サラも、いつもとは違う服を着ている。
ミラが作った服だ。
派手ではない。
でも、よく似合っていた。
お腹はまだほとんど目立たない。
「苦しくない?」
「大丈夫」
「具合悪くなったら言いなよ」
「分かってる」
今日は何回言っただろう。
まあいい。
ニコも着替えていた。
こちらもミラが作った。
普段よりずっと立派に見える。
「似合うね」
そう言うと、ニコが少し笑った。
「ありがとう」
ルークも着替えていた。
採寸から逃げられなかったらしい。
「窮屈」
「我慢しな」
「早く着替えたい」
まだ始まってもいない。
ギルドの広間へ行くと、もう人が集まり始めていた。
カイルたち。
ミラの夫。
子供たち。
ダンとエリオ。
畑の人たち。
代官府の人たち。
商人もいる。
ギルドマスターもいた。
思っていたより多い。
「小さい式じゃなかった?」
サラに聞く。
「小さいよ」
やっぱり基準が分からない。
孫が走っている。
イナは連れてこなかった。
正解だったと思う。
料理も並んでいる。
見覚えのあるものも多い。
コルン焼きもあった。
それを見て、少しだけ昔を思い出した。
この町へ来たばかりの頃。
おばちゃんの屋台。
何か売れるものはないかと考えて、作り方を教えた。
あの頃は、こんな日が来るとは思っていなかった。
おばちゃんにも見せたかった。
カイルとミラとニコを見つけて、この家へ連れてきた人だ。
あの時、ニコは三歳だった。
小さくて、お腹を空かせていた。
温かいカルト芋を持たせたら、サラが横に座った。
落とした芋をイナに食べられて、それからサラはニコの芋を守るようになった。
今では二人とも二十一歳だ。
結婚する。
赤ちゃんまでできた。
おばちゃんがいたら、何と言っただろう。
多分、笑ったと思う。
もういない。
少し残念だ。
「おばさん」
呼ばれた。
見ると、サラがいる。
「何?」
「始まるよ」
「うん」
私は席へ向かった。
式そのものは簡単だった。
二人が前に立つ。
これから夫婦として暮らすことを皆の前で誓う。
それだけだ。
難しい言葉もない。
長い話もない。
いい式だと思う。
サラが笑っている。
ニコも笑っている。
ルークは真面目な顔で見ていた。
隣にいるカイルは普通だ。
ミラは少し泣いていた。
私は泣かなかった。
泣くようなことではない。
嬉しいことだ。
三歳だった二人が二十一歳になった。
それだけだ。
それだけなのに。
少しだけ、胸の奥が変だった。
私は服の上から、お守りに触れた。
みんなが作ってくれたものだ。
硬い枠が指に当たる。
大丈夫。
ちゃんとここにある。
式が終わると、一気に騒がしくなった。
料理が運ばれる。
酒も出る。
子供が走る。
誰かが笑う。
さっきまでの静けさは何だったのだろう。
私はコルン焼きを取った。
一つ食べる。
美味しい。
「おばさん」
振り向く。
サラとニコがいた。
二人並んでいる。
「どうしたの?」
サラが笑った。
「ありがとう」
何が。
そう聞こうとして、やめた。
多分、色々だ。
「どういたしまして」
それだけ答えた。
ニコも頭を下げる。
「ありがとう、おばさん」
「うん」
二人を見る。
夫婦になった。
見た目は昨日とあまり変わらない。
明日になれば、またサラは畑を気にするだろう。
ニコも代官府へ行く。
同じ家へ帰ってくる。
私もご飯を作る。
多分、そんなに変わらない。
それでいい。
「ほら、食べな」
二人に料理を勧める。
サラが笑った。
ニコも笑った。
向こうでは、ルークがダンに何か言われている。
嫌そうな顔をしていた。
カイルの子供が料理へ手を伸ばして、母親に止められている。
ミラの子供は眠そうだ。
ずいぶん増えた。
最初は、私とルークとサラとイナだった。
それからカイルとミラとニコが来た。
少しずつ増えて。
大きくなって。
出ていったり。
戻ってきたり。
結婚したり。
子供が生まれたり。
今日、また家族が少し変わった。
減ってはいない。
それがいい。
私はもう一つ、コルン焼きを取った。
今日はコーラがなくてもいい。




