第48章 ⑦
ニコが本を借りてきた。
三冊。
全部、妊娠と出産についての本だった。
それは分かる。
初めての子供だ。
知らないより、知っていた方がいい。
問題は、その二日後だった。
ルークも本を借りてきた。
二冊。
「何それ?」
サラが聞いた。
「出産の本」
「何でお兄ちゃんまで読むの?」
「知ってた方がいいだろ」
「ニコが読んでるよ?」
「俺も知ってて困らない」
真面目な顔だった。
私は二人を見る。
ニコが本を読んでいる。
ルークも読んでいる。
随分熱心だ。
しばらく放っておいた。
その日の夕方。
二人が何か話している。
「ここだと、痛みが始まってから――」
「でも初めてなら長くなることもあるって」
「医者を呼ぶのは早い方がいいな」
「それはそうだね」
私は夕飯の準備をしながら聞いていた。
間違ってはいない。
間違ってはいないけど。
「ねえ」
二人が私を見る。
「何?」
「おまえたちが産むんじゃないよ」
二人とも黙った。
サラが笑った。
「分かってるよ」
ニコが言う。
「なら、産んだ後のことも読みな」
「産んだ後?」
ルークが聞く。
そこだった。
私は手を止めた。
「赤ちゃんが生まれたら終わりじゃないからね」
二人を見る。
「サラは疲れてる。体もすぐには戻らない。赤ちゃんは昼も夜も関係ない。泣く。お腹空く。汚す。また泣く」
ニコが本を見る。
ルークも自分の本を見る。
「ご飯は?」
「……作る」
ニコが答えた。
「洗濯」
「する」
「掃除」
「する」
「赤ちゃんが夜泣いたら?」
少し間があった。
「起きる」
「誰が?」
「僕が」
よろしい。
ルークが口を開いた。
「俺もいるよ」
私はルークを見る。
「起きるの?」
「必要なら」
使える人手が増えた。
「じゃあ二人でやりな」
「うん」
サラが笑っている。
「私もやるよ?」
「あなたは産む人」
「産んだ後は?」
「休む人」
サラが少し不満そうな顔をした。
多分、じっとしていられない。
今から分かる。
「畑は?」
「行かない」
「いつまで?」
「医者がいいって言うまで」
サラが黙った。
嫌そうだ。
でも、そこは譲らない。
私はまた料理を始めた。
ニコが本をめくる。
さっきとは違うところを探している。
「そんなに大変なの?」
ルークが聞いた。
「大変だよ」
「どのくらい?」
どのくらい。
説明するのは難しい。
私は少し考えた。
昔、聞いたことがある。
あれなら分かりやすい。
「おまえたちの鼻から鍋を出すくらい」
静かになった。
ニコが自分の鼻を触った。
ルークも触った。
サラが吹き出した。
「鍋?」
「このくらいの」
私はいつも使っている鍋を指した。
ルークの顔が引きつった。
「無理だろ」
「だから大変だって言ってるの」
「死ぬだろ」
「だから出産は命懸けなんだよ」
笑っていたサラが少し静かになった。
私はサラを見る。
怖がらせたいわけではない。
でも、この世界では本当にそうだ。
カイルの妻の時も。
ミラの時も。
無事に生まれるまで、ずっと心配だった。
今回も同じだ。
「だから」
私はニコとルークを見る。
「産むところは、サラと医者に任せな。おまえたちは、その前と後」
二人が頷いた。
今度はさっきより真剣だった。
「特に後ね。産まれたから終わりじゃないよ」
「分かった」
ニコが答えた。
ルークも頷く。
サラが私を見る。
「おばさんは?」
「何が?」
「何するの?」
「私?」
考える。
ご飯。
洗濯。
掃除。
赤ちゃん。
できることはいくらでもある。
でも。
「監督」
「ずるい」
「長くやってるからね」
私は鍋を混ぜた。
後ろで、また本をめくる音がした。
今度は二人とも、出産の後を探しているらしい。
よし。
少しは役に立ちそうだ。




