第1章 おばさん、異世界へ行く ④
私は勢いよく立ち上がった。
「あるじゃん魔法ぉぉぉ!!」
男の子は完全に固まった。
私はそんな事気にしていない。
「いやほら! あるじゃん! 魔法!!」
私は勢いよく右手を前へ出した。
「ファイア!」
無。
沈黙。
私は静かに手を下ろした。
「……なんで?」
割と本気で傷ついた。
男の子は少し困った顔をしている。
私はしばらく考え込み――
ふと現実へ戻った。
「まぁいいや」
お腹が空いていた。
そっちの方が重要だった。
私は餃子を取り出す。
そして止まった。
私は荷物を漁る。
フライパン。
無い。
私はしばらく考え込み――
発泡スチロール箱の横を見る。
そこにあった。
六十八円。
塩バター味。
ガスコンロ用ポップコーン。
私は真顔になる。
「これだ」
男の子は意味が分からない顔をした。
私はポップコーンを焚き火の上へ置く。
そして真剣な顔で見守る。
「来るぞ……」
数秒後。
パン!!
男の子が飛び上がった。
犬が吠えて洞窟の奥へ逃げる。
「よし来た!!」
パン!!
パンパンパンパン!!
アルミ皿が震え始める。
男の子は完全に壁際へ避難した。
私は一人だけテンションが上がる。
「ポップコーンだぁぁ!!」
異世界の洞窟に。
塩バターの匂いが広がっていった。
やがて音が落ち着く。
私は慎重にアルミ皿を火から下ろした。
「おぉぉ……」
ちゃんと出来てる。
少し焦げてる。
でも出来てる。
私は感動した。
異世界なのに。
その時だった。
洞窟の奥から。
小さな影がひょこっと顔を出した。
女の子だった。
三歳くらい。
ぼさぼさの髪。
大きめの服。
眠そうな顔。
だが次の瞬間。
くん。
鼻が動いた。
塩バターの匂いに気付いたらしい。
女の子はふらふらとこちらへ歩いてくる。
男の子が慌てて振り返った。
「だめ!」
かなり必死だった。
だが妹は止まらない。
完全に匂いへ釣られていた。
ちなみに私も。
匂いへ釣られてポップコーンを買った側の人間だった。
その気持ちは少し分かる。
私は鞄をを漁る。
竹箸。
プラスチックスプーン。
プラスチックフォーク。
お手拭き。
私は頷く。
「持ってきてて正解だった」
誰に言うでもなく呟いた。
私はポップコーンを一つ摘まむ。
そして自分で食べた。
「ほら。毒見済み」
妹は兄の後ろから顔を出す。
そしてぽつりと言った。
「……いいにおい」
その一言で。
男の子の警戒が少しだけ揺れた。
私はポケットティッシュを取り出す。
その上へポップコーンをざらざらと開けた。
妹の目がきらきらした。
私は少し笑う。
そして空になったアルミ皿を見る。
少し煤けている。
だが、使えそうだった。
私は頷く。
「よし」
餃子を取り出す。
「本命行こう」
男の子はますます意味が分からない顔をした。
私は餃子をアルミ皿へ並べる。
じゅ……
小さな音がした。
「あ、焼けてる焼けてる」
私は少し元気を取り戻した。
だが数秒後。
真顔になる。
「……蓋無いな」
重要だった。
私は周囲を見回す。
石。
木箱。
布。
全部違う。
私はしばらく考え込み――
「まぁいいか」
主人公は時々。
勢いで問題を解決しようとする。
私は箸で餃子を押した。
じゅっ。
ぺた。
「あ」
少し平たくなった。
だが私は真顔で頷く。
「……これは逆に良いのでは?」
薄くなった。
つまり。
「中まで火通りやすい」
私はさらに餃子を押す。
ぺた。
じゅぅぅ……
もう、普通の餃子の形ではなくなっていた。
でも焼けている。
多分。
「生じゃなければ何とかなる。多分」




