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閑話 勇者は追う

ギルドの一室。


机の上へ手帳が置かれた。


解任書も置かれた。


元副官は椅子に座っている。


今度は酒がない。


代わりにギルドマスターがいた。


商人もいる。


衛兵もいる。


記録係が筆を持っている。


アルトは壁際で待っていた。


「名は」


ギルドマスターが聞く。


元副官は答える。


「役職は」


「王都中央研究所統括官付副官」


一度言葉を切る。


「昨日まで」


「この手帳は?」


「統括官から受けた指示を記録したものだ」


ギルドマスターが開く。

日付。


時刻。


通信先。


指示の内容。


地方研究所から中央へ送られた報告。


削除させた署名。


処分を命じた記録。


何頁も書かれていた。


商人が横から覗く。


「随分と丁寧だな」


「統括官を信用していなかった」


「なら、何故従った」


元副官は黙った。


記録係の筆が止まる。


しばらくして元副官が答えた。


「自分が切られるまでは」


自分の手を見る。


「従っていれば、安全だと思っていた」

部屋が静かになる。


言い訳だ。


本人も分かっている。


「子供達が死んだことは知っていたか」


「報告を受けていた」


「何人だ」


「全体の数は分からない」


「この町の二十三人は」


元副官の口が止まった。


「知っていた」


アルトが壁から離れた。


一歩前へ出る。


「知ってたの?」


元副官はアルトを見ない。


「ああ」


「助けなかったの?」


「助けなかった」


「どうして?」


答えはなかった。


アルトは待った。


だが何も返ってこない。


ギルドマスターがアルトを見る。


「こいつは、こちらで預かる」


「うん」


「証言も取る。手帳も調べる」


「うん」


「王都へ送る証拠になる」


アルトの顔が明るくなった。


「じゃあ、役に立った?」


ギルドマスターは元副官を見る。


「これから次第だ」


アルトも元副官を見る。


「頑張って」


「何をだ」


「全部話すの」


「お前はどこへ行く」


アルトは窓を見る。


王都の方角。


「ラセルを追いかける」


元副官が顔を上げる。


「待て」


「何?」


「あの男を一人で王都へ行かせたのか」


「うん」


「何故だ!」


元副官が初めて本気で慌てた。


アルトは首を傾げる。


「ラセルは強いよ?」


「そういう意味ではない!」


「頭もいい」


「だからだ!」


元副官は立ち上がろうとした。


衛兵に肩を押さえられる。


「急いで追え!」


「分かった!」


アルトは素直に頷いた。


部屋から走り出す。


扉が閉まる。


元副官は机へ手をついた。 


「王都で何をするつもりだ、あの吟遊詩人は……」


ギルドマスターが手帳を閉じる。


「向こうから出てきてもらう、と言っていたそうだな」


元副官の顔が引き攣った。


それが何を意味するのか。


この部屋では。


元副官だけが分かっていた。


        ◇


町を出たアルトは街道を進んでいた。


王都へ続く道。


ラセルが向かった道。 


足取りは軽い。


途中から跳ねるようになった。


「ラセルに会える!」


一歩。


「王都に行ける!」 


もう一歩。


「悪い研究所も止められる!」


良いことばかりだった。


アルトは上機嫌で進む。


ほとんどスキップだった。


すれ違った旅人が振り返る。


大剣を背負った大男が。


笑顔で跳ねている。


少し怖かった。


アルトは気にしない。


「待てろ、ラセル!」


王都へ向かって。


さらに足を速める。 


その頃王都では。


アルトから解放された吟遊詩人が。


好き放題を始めようとしていた。

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