第34章 ⑲
「他には?」
ギルドマスターが聞く。
「何を消せと言われた」
「それだけだ」
「嘘だな」
「嘘ではない」
「死亡記録は?」
所長の顔が固まった。
死亡。
私は所長を見る。
「誰が死んだの?」
男は答えない。
「何人?」
答えない。
薬師が机の記録を探す。
でも。
ない。
投薬記録。
受け入れ記録。
移送記録。
どこにも。
死亡とは書かれていない。
代わりに。
終了。
移送。
観察不能。
そんな言葉がある。
「どこへ移送した」
薬師が聞く。
所長は黙っている。
「観察不能になった子供を」
記録を持ち上げる。
「どこへ送った」
「中央だ」
「全員か」
「そうだ」
商人が帳面を見る。
「移送費がない」
所長の目が動く。
「中央へ送ったなら、馬車代が掛かる」
別の帳面。
「護衛費もない」
次。
「受領印もない」
商人は所長を見る。
「どこへやった」
「中央の者が引き取りに来た」
「いつ」
「記録にある」
「日付だけだ」
「その日に来た」
「誰が?」
答えない。
「名前は?」
答えない。
「馬車を見た者は?」
答えない。
部屋の奥から。
誰かが連れてこられた。
副所長だった。
腕を掴まれている。
服の袖が焦げていた。
手には。
黒くなった紙。
冒険者が机へ投げる。
「通信室で燃やしていた」
半分だけ残った紙。
文字も。
半分残っている。
処分。
遺体。
地下。
私は。
その三つを見た。
薬師が紙を取る。
副所長の顔を見る。
「地下に何がある」
副所長は答えない。
所長を見る。
助けを求めるように。
所長は。
副所長から目を逸らした。
また。
下へ責任を渡すつもりだ。
副所長の顔が変わった。
「所長に命じられた!」
叫んだ。
「通信記録を燃やせと!」
「嘘だ!」
所長も声を上げる。
「お前が勝手に――」
「地下の処分記録もだ!」
所長が止まる。
副所長は続けた。
「全部燃やせと言った!」
「黙れ!」
「死んだ子供の記録も!」
部屋の空気が。
凍った。
所長が。
初めて。
本気で逃げようとした。
衛兵が腕を掴む。
「離せ!」
所長が暴れる。
「私は知らない!」
「何人だ!」
ギルドマスターの声が響く。
所長は答えない。
「地下に何人いる!」
「知らない!」
「お前が所長になってから、何人死んだ!」
「私が殺したんじゃない!」




