第34章 ⑯
「この統括官から、直接指示を受けたのか」
「書面で届いた」
「会ったことは?」
「年に一度、視察へ来る」
「今年は?」
「来た」
「いつ」
「冬の終わりだ」
「子供達を見たか」
「見た」
「部屋も?」
「見た」
「投薬も?」
所長が黙った。
薬師の目が細くなる。
「見たのか」
「一度だけだ」
「どの子だ」
所長は答えない。
ギルドマスターが机の記録を探す。
視察日。
投与記録。
同じ日。
薬師の手が一枚の紙で止まった。
「この子か」
三歳。
発熱。
嘔吐。
食事不能。
大人二人で押さえられた子。
所長は否定しない。
「中央の統括官は」
薬師が聞く。
「その場にいたのか」
「いた」
「子供が泣いているのを見たか」
「見た」
「吐いたのも?」
「見た」
「口から血が出たのも?」
所長の声が。
少し掠れた。
「見ていた」
部屋の空気が止まる。
「止めたか」
所長は答えない。
「何と言った」
薬師が聞く。
「統括官は何と言った」
所長は目を伏せた。
「続けろと」
「それだけか」
「規定量を入れろと言った」
「他には」
所長の手が。
また白い服を掴む。
「記録を取れと」
私の中で。
何かが。
ゆっくり。
冷たくなった。
子供が泣いていた。
吐いていた。
口から血が出ていた。
その前で。
記録を取れ。
「あなたは?」
私は聞いた。
所長がこちらを見る。
「何をしたの?」
「統括官の指示に従った」
「止めなかったの?」
「中央の責任者だ」
「止めなかったの?」
男は答えない。
「あなたの研究所だよね」
「中央の管轄だ」
「ここにいる子供達は」
私は所長を見る。
「あなたが保護してるって言ったよね」
「管理責任はある」
「じゃあ、何で止めなかったの?」
「私が逆らえば、所長を外される」
「それで?」
「別の者が来るだけだ」
「だから?」
「私が残った方が、まだ管理できる」
出た。
自分がいた方がまし。
悪いことをする人が。
よく言う言葉。
多分。
「ましだったの?」
私は聞く。
所長が黙る。
「子供は吐いた」
「熱が出た」
「血も出た」
「それでも続けた」
一つずつ。
所長が守ったものを。
確認する。
「子供じゃなくて」
私は男を見る。
「自分の席を守ったんだね」




