第34章 ⑨ー5
大きな音だった。
でも誰も驚かなかった。
ギルドマスターが男を見る。
「では、その札を外せ」
責任者の手が。
胸の札へ動く。
紐を掴む。
「外しても」
ギルドマスターは続けた。
「やったことは消えないがな」
男の手が止まる。
「所長の命令だった」
「命令がなければ、やらなかったのか」
「当然だ」
「子供が吐いても続けろと?」
「所長が決めた」
「押さえて飲ませろと?」
「必要ならそうしろと」
「報告を記録するなと?」
男は黙った。
ギルドマスターの目が細くなる。
「それも所長の命令か」
「研究に不要な記録は残さない方針だった」
「誰が決めた」
責任者は。
今度こそ。
所長を見た。
所長は動かない。
「答えろ」
ギルドマスターが言う。
「所長だ」
部屋の視線が。
一斉に向いた。
所長の顔は。
さっきまでと変わらない。
何も感じていないような顔。
でも手だけが、白い服の端を強く掴んでいた。
「違う」
所長が言った。
責任者が振り返る。
「何が違う!」
初めて声を荒らげた。
「あなたが言った!」
所長は男を見る。
「必要な観察記録を残せと言った」
「不要な記録は捨てろと言った!」
「判断したのはお前だ」
責任者の口が開いたまま止まる。
今度は自分が切られた。
四の札へ責任を渡したように。
所長も責任者へ渡した。
「私はあなたの指示に従った!」
「現場の責任者はお前だ」
「最終決定は所長だろう!」
「適切に判断する権限を与えていた」
「そんなことは一度も――」
ギルドマスターが机を叩いた。
二人とも黙る。
「責任を押し付け合うのは後にしろ」
低い声が部屋へ響く。
「どちらにもある」
責任者の顔が固まる。
所長も黙った。
「命じた者」
ギルドマスターが所長を見る。
「実行を決めた者」
責任者を見る。
「薬を作った者」
研究所の薬剤師。
「食事へ混ぜた者」
三の札。
「押さえた者」
四と六。
「全員、自分のしたことに責任を取れ」




