第34章 ⑧-1
四の札の男が連れてこられた。
大きな男だった。
腕も太い。
冒険者ではない。
研究所の人間。
子供を押さえるための人。
多分。
男は三の札を見る。
三の札は目を逸らした。
ギルドマスターが聞く。
「投薬の補助をしたのか」
「した」
男は答えた。
声は落ち着いている。
「何をした」
「暴れる子供を押さえた」
「何故、暴れた」
「薬を嫌がったからだ」
「違う」
私は言った。
男がこちらを見る。
「食べたくないから逃げた」
「同じことだ」
「違う」
同じではない。
薬を嫌がった。
苦いから。
怖いから。
吐いたから。
具合が悪くなったから。
子供達は知っていた。
それを食べると。
苦しくなる。
「何人で押さえたの?」
「子供による」
「三歳の子は?」
男は黙る。
衛兵が記録を捲った。
「四と六」
二人。
三歳の子供を。
大人二人で押さえた。
「どこを?」
「手足だ」
「どうやって?」
「動かないようにした」
また便利な言葉。
動かないようにした。
押さえたとは言わない。
私は男の腕を見る。
太いその腕で。
三歳の子供の手足を。
「床?」
「寝台だ」
「寝かせたの?」
「横にした」
「自分で?」
答えない。
ギルドマスターの声が低くなる。
「具体的に言え」
男は少し息を吐いた。
「寝台へ運んだ」
「運んだ?」
「暴れるから抱えた」
「抱えた後は」
「寝かせた」
「その後は」
「腕を押さえた」
「もう一人は?」
「足だ」
衛兵の筆が動く。
大人二人。
子供を寝台へ運ぶ。
腕と足を押さえる。
逃げられないように。
「口は?」
男の目が動いた。
「三が食べさせた」
「口を開けなかったら?」
「頬を押した」
私は止まる。
「誰が?」
「私だ」
「どうやって?」
男は自分の手を見た。
親指と指を広げる。
「顎を押さえた」
「それで?」
「口を開かせた」
三の札が匙を入れた。
四の札が顎を掴んだ。
六の札が足を押さえた。
子供は動けない。
顔も逸らせない。
口も閉じられない。
「泣いた?」
男は答えない。
「泣いたの?」
「子供は泣くものだ」
その言葉で。
部屋の空気が変わった。
冒険者の一人が動いた。
隣の男が腕を掴む。
止めた。
商人は何も言わない。
でも。
顔が怖い。
薬師は記録を持ったまま、四の札を見ている。
ギルドマスターが聞く。
「泣いている子供を、大人二人で押さえたんだな」
「必要な処置だった」
「何に必要だった」
「投薬だ」
「何のための投薬だ」
「魔力を抑えるためだ」
「何故、抑える必要があった」
「管理のためだ」
治療ではない。
子供のためでもない。
研究所が。
困らないため。
「暴れたって言ったね」
私は男を見る。
「危険だったの?」
「抵抗した」
「誰かを傷付けた?」
「いや」
「魔法を使った?」
「いや」
「物を壊した?」
「いや」
「じゃあ、何が危険だったの?」
男は答えない。
危険ではなかった。
逃げようとしただけ。
口を閉じただけ。
食べたくないと。
体全部で言っただけ。
ギルドマスターが衛兵を見る。
「暴れたは消せ」
衛兵の筆が止まる。
書いた文字へ線を引く。
「薬品の摂取を拒否した子供を拘束」
新しく書く。
「寝台へ運び、大人二名で手足を押さえた」
次。
「顎と頬を掴み、強制的に口を開かせた」
次。
「薬品を混ぜた食事を、拒否する子供へ
摂取させた」
四の札が声を上げた。
「拘束ではない!」
ギルドマスターが男を見る。
「では、その子は動けたのか」
「投薬が終わるまでは――」
「動けたのか」
男の口が閉じる。




