第34章 ⑦-1
薬師が薬瓶をまとめる。
商人も記録を重ねた。
ギルドマスターが研究所の薬剤師を見る。
「薬を作った後は、どうした」
男は机の端を見た。
「投与担当へ渡した」
「誰だ」
答えない。
「記録に残っているな」
衛兵が調合記録を捲る。
薬を作った者。
受け取った者。
飲ませた時刻。
全部。
名前ではなかった。
番号だった。
「三」
衛兵が言う。
「投与担当は三だ」
廊下にいた研究所の男達が動く。
冒険者が一人を連れてきた。
額に三の札。
細い男だった。
白い服ではない。
腰に布を巻いている。
食事を運んでいた人。
男は机の上の薬瓶を見る。
顔が強張った。
「これを知ってる?」
私が聞く。
「薬だ」
「何の?」
「魔力を抑える薬だ」
知っていた。
ギルドマスターが記録を指す。
「お前が受け取ったのか」
「指示された分を受け取った」
「その後は?」
「食事に混ぜた」
すぐに答えた。
悪いことだと思っていない。
そんな声だった。
私は男を見る。
「何に混ぜたの?」
「粥やスープだ」
「全部?」
「指定された子供の分だけだ」
「どれか分かるように?」
「器に番号がある」
額の札と同じ。
名前ではない。
器にも番号。
「子供は知ってた?」
「何をだ」
「薬が入ってること」
男が少し黙る。
「説明する必要はない」
「何で?」
「飲ませることが決まっていた」
答えになっていない。
私は薬瓶を見る。
「味は変わる?」
薬師が答えた。
「苦くなる」
「匂いも?」
「量によっては分かる」
私は三の札を見る。
「子供達は嫌がった?」
「薬は誰でも嫌がる」
「食事を嫌がった?」
「食べない子供はいた」
やっぱり。
分かっていた。
薬が入っていると。
子供にも分かっていた。
「食べなかったら?」
男は答えない。
「下げたの?」
「決められた量を取らせる必要がある」
「どうやって?」
「食べるように促した」
促した。
便利な言葉だった。
ギルドマスターが低い声で聞く。
「具体的に言え」
「匙で食べさせた」
「口を閉じた子は?」
男の目が動く。
廊下にいる別の男達を見る。
「補助を呼んだ」
「何を補助した」
「投薬だ」
「何をした」
今度は答えなかった。
私は記録を見る。
三歳。
五歳。
小さい子供。
その食事へ。
苦い薬を混ぜた。
食べないと分かっていて。
「吐いた子にも混ぜた?」
「指示があれば」
「熱がある子にも?」
「投与の記録に従った」
「食べられない子にも?」
男の口が止まる。
私は三歳の子の記録を取る。
食事を取れず。
水も吐いた。
その次の日。
投与済み。
「この子」
紙を見せる。
「何に混ぜたの?」
「……薄い粥だ」
「食べた?」
「途中で吐いた」
「薬は?」
「必要量に達していなかった」
「だから?」
男の喉が動く。
「新しい粥を用意した」
もう一度。
薬を混ぜた。
吐いた子に。
また。
「二回目は?」
「食べなかった」
「それで?」
「補助を呼んだ」
また補助。
押さえる人。
口を開ける人。
飲ませる人。
でも。
その前に。
この人が薬を混ぜた。
「吐いたのを見た?」
「見た」
「熱があるのも?」
「知っていた」
「食べられないのも?」
「記録にはあった」
全部知っていた。
それでも。
新しい粥を用意して。
また薬を混ぜた。
私は薬師を見る。
「これ」
瓶を指す。
「薬?」
「薬だ」
薬師が答えた。
それから。
三歳の子の記録を見る。
「だが、この状態の子へ、この量を飲ませれば毒になる」
三の札の男が顔を上げた。
「毒ではない。中央研究所の薬だ」
「薬なら何をしても毒にならないと思っているのか」
薬師の声は冷たかった。
「量を誤れば毒になる」
「混ぜ方を誤っても」
「弱った体へ使っても」
薬師は男を見る。
「お前は吐いた子に、毒になる量をもう一度混ぜた」
「私は指示された通りに――」
「食事へ毒を混ぜた」
男の顔から色が消える。




