閑話 裁縫①
閑話 裁縫①
異世界五日目。
朝だった。
兄は採取へ行った。
妹は犬と遊んでいる。
平和だった。
私は荷物を整理していた。
そこで気付く。
兄の服だった。
肘の辺りが擦り切れている。
妹の服も見る。
裾がほつれていた。
主人公は思った。
気になる。
私は布を取り出した。
糸も取り出した。
市場で買った物だった。
使う時が来た。
主人公は思った。
文明だった。
針を取り出す。
地球から持って来た裁縫セットだった。
少し嬉しい。
私は糸を手に取る。
針を見る。
糸を見る。
針を見る。
糸を見る。
「ん?」
太かった。
糸が。
私は糸の先を捻る。
細くする。
頑張る。
針穴へ向かう。
入らない。
固まる。
もう一度やる。
入らない。
三回目。
入らない。
四回目。
入らない。
五回目。
入らない。
主人公は思った。
おかしい。
私は糸を見る。
針を見る。
糸を見る。
針を見る。
やはり入らない。
妹が近付いてきた。
こちらを見ている。
私は言った。
「戦ってる」
妹は頷いた。
多分分かっていなかった。
私は戦う。
糸と。
しばらく後。
入らなかった。
主人公は思った。
異世界だった。
その時だった。
兄が戻って来た。
私は針を見せる。
糸を見せる。
そして言った。
「通らない」
兄は針を見る。
糸を見る。
しばらく考える。
そして言った。
「違う」
私は固まった。
「違う?」
兄は頷いた。
腰の袋を探る。
取り出した。
木の針だった。
私は木の針を見る。
兄を見る。
木の針を見る。
主人公は思った。
大きかった。
畳針みたいだ。
針穴も大きかった。
兄は糸を通す。
入った。
あっさり入った。
私は固まった。
兄は言った。
「服」
私は木の針を見る。
糸を見る。
木の針を見る。
入るなら良かった。
それで良かった。
私は兄の服を補修した。
妹の服も補修した。
少し満足だった。
異世界五日目。
主人公はまた一つ学んだ。
異世界の糸には。
異世界の針だった。
主人公はまだ知らない。
都会へ行けば。
もっと細い糸も。
もっと小さな針も。
存在する事を。




