第30章 ②-2 母親
中に女がいた。
椅子に座っている。
顔色は悪い。
服は旅の汚れが付いている。
疲れているように見える。
そんなことはどうでもいい。
私は顔を見る。
ルークと少し似ている。
目元。
口元。
サラにも少し似ている。
似ている。
それが。
嫌だった。
女は私達を見る。
最初に私。
次にギルマス。
おばちゃん。
そして。
ルーク。
女の顔が動いた。
「ルーク」
ルークの体が固まった。
サラが私の後ろで、服をさらに掴む。
女は立ち上がろうとした。
私は一歩前へ出た。
何も言わない。
ただ前に出る。
女は止まった。
私は女を見る。
「座って下さい」
女は私を見る。
少し驚いた顔をした。
「あなたは」
「座って」
私はもう一度言った。
声は大きくない。
部屋の中が静かになった。
女はゆっくり座った。
ギルマスが私の横に立つ。
おばちゃんはサラの近く。
カイルとミラとニコは、少し後ろ。
イナは入口の近く。
唸ってはいない。
でも、低く見ている。
私は椅子には座らなかった。
立ったまま。
女を見る。
「あなたがルークとサラの母親?」
女は頷いた。
「そうです」
声が震えている。
「母です」
母。
その言葉に、ルークの手が動いた。
私は見た。
でも振り返らない。
今は前を見る。
「名前は?」
女は名乗った。
私は覚えた。
覚える。
必要だから。
「今までどこにいたんですか?」
女は少し詰まった。
「王都に」
王都。
昨日聞いた。
「王都で何をしていたのですか?」
「働いていました」
「何の仕事?」
女は視線を逸らした。
「いろいろです」
私は頷く。
いろいろ。
便利な言葉だ。
使わせない。
「いろいろでは分からないですね」
女は唇を噛む。
「下働きです」
「どこの?」
「……研究所の近くの」
ギルマスの顔が少し動いた。
おばちゃんの目が細くなる。
私は女を見る。
「研究所」
女は黙る。
「ルークとサラを連れて行った場所ですか?」
女が顔を上げる。
「違います」
早かった。
早すぎた。
私は黙る。
女は慌てる。
「違うんです」
「私は」
「ただ、あの子達のために」
私は言う。
「ん?何が違うのですか?」
女は止まった。
「研究所ではないのですか?」
「連れて行ったのでは?」
「王都ではないのですか?」
一つずつ。
ゆっくり。
女の顔色が変わる。
「王都には」
「行きました」
「研究所にも?」
女は黙る。
私は待つ。
言わせる。
全部。
部屋の中が静かになる。
外の音が遠い。
女は小さく言った。
「……行きました」




