第30章 ②-1 朝
朝になった。
あまり眠れなかった。
でも朝はちゃんと来る。
火を起こす。
水を温める。
米を温める。
スープも温める。
出来るだけ。
いつも通り。
サラは起きてくる。
眠そうな顔だった。
「みー」
「おはよう」
「おはよ」
サラは私の服を掴む。
昨日より少し近い。
多分。
何か感じている。
でも、分かってはいない。
ニコも起きる。
ミラも起きる。
カイルも起きる。
ルークはもう起きていた。
火のそばに座っている。
目の下が少し暗い。
寝ていない。
私はルークを見る。
ルークも私を見る。
少しだけ。
それだけ。
私は聞かない。
朝ご飯を出す。
小さいおにぎり。
スープ。
少しの野菜。
昨日と似ている。
でも、味がしない。
いや。
味はある。
多分。
私が分かっていないだけだ。
サラは食べる。
ニコも食べる。
イナも食べる。
カイルとミラは静かに食べる。
ルークも食べる。
ゆっくり。
でも食べる。
私はそれを見て、少しだけ息を吐く。
食べた。
それだけでいい。
今は。
朝ご飯の後。
片付けをする。
ミラが手伝おうとする。
私は頷く。
「お願い」
カイルが水を汲む。
「お願い」
出来るだけいつも通り
でも。
今日は町へ行く。
私は布を取る。
少しだけ身支度をする。
よそ行きではない。
でも、汚れた服では行かない。
母親だと言う女に会う。
研究所に売った女に会う。
胸の中が熱くなる。
私は息を吸う。
まだ。
まだ駄目。
まず聞く。
全部言わせる。
私はルークを見る。
「行く?」
ルークは少し黙った。
それから頷いた。
「行く」
私は頷く。
「分かった」
サラが私を見る。
「わたしも?」
私は少し考える。
サラは小さい。
まだ分からない。
でも。
サラの話でもある。
「一緒に行く」
「でも怖かったら、後ろ」
サラは首を傾げた。
「うしろ?」
「うん」
「私の後ろ」
サラは私を見る。
それから頷いた。
「うしろ」
ニコも言う。
「うしろ」
違う。
少し違う。
でもいい。
ミラがニコの手を取る。
「ニコくんは、私と一緒です」
ニコは頷いた。
分かっていない顔だった。
カイルが言う。
「俺も行く」
私はカイルを見る。
「家、空になる」
カイルは黙る。
少し考える。
「俺が残る?」
私は首を振る。
一人では残さない。
「みんなで行く」
「イナも」
イナが顔を上げる。
行く気だった。
私は続ける。
「でも町では静かに」
サラとニコが頷く。
多分、分かっていない。
イナは分かっていない。
絶対。
家を出る。
畑を見る。
小さな芽。
低い柵。
洗濯物を干した場所。
昨日までの家。
今日の家。
全部そこにある。
私は戸を閉める。
「行こう」
町への道を歩く。
春の道。
雪はもうほとんどない。
土が見えている。
草も少し出ている。
鳥の声がする。
普通なら。
気持ちの良い朝だった。
でも今日は違う。
ルークは私の横を歩く。
サラは私の服を掴んでいる。
カイルは少し後ろ。
ミラはニコの手を握っている。
イナは前へ行きすぎないように、何度も振り返る。
偉い。
町が見える。
人の声が聞こえる。
匂いがする。
パン。
煙。
土。
そして少し。
米を炊く匂い。
どこかで米を炊いている。
町に米が広がっている。
昨日までなら嬉しかった。
今日は。
遠い。
ギルドへ着く。
おばちゃんが入口にいた。
待っていたらしい。
私達を見る。
ルークを見る。
サラを見る。
それから私を見る。
「来たね」
私は頷く。
「うん」
おばちゃんは近付く。
サラの頭を撫でる。
「怖かったら、あたしの後ろに来な」
サラは頷いた。
「うしろ」
おばちゃんは少し笑う。
でも目は笑っていない。
ギルマスも来た。
「中だ」
私は頷く。
「うん」
ギルマスはルークを見る。
「無理はしなくていい」
ルークは何も言わない。
でも頷いた。
ギルドの中へ入る。
いつもより静かだった。
人はいる。
でも声が小さい。
何かを感じているのだと思う。
奥の部屋へ案内される。
前に契約の時に入った部屋。
嫌な思い出が少しある。
でも今日は違う。
違うはずだ。
扉の前で、私は止まる。
息を吸う。
吐く。
一回。
もう一回。
私はルークを見る。
「ここで待つ?」
ルークは首を横に振った。
「行く」
私は頷く。
「分かった」
サラは私の後ろに隠れた。
服を掴む手が強い。
私はそのまま扉を開けた。




