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第30章 ①-3 洞窟の前

その時。


火の音が少し大きく聞こえた。


ぱち。


ぱち。


「それから」


ルークは眉を寄せる。


思い出そうとしている。


でも、思い出せない。


「変な音」


「下から」


「石が鳴った」


「床が」


「光った」


魔法陣。


その言葉が、私の中に浮かぶ。


でも言わない。


まだ。


「白じゃない光」


「青?」


「黒?」


「分からない」


「ぐるって」


「落ちたみたいで」


「でも落ちてない」


「寒かった」


ルークの声が急に小さくなる。


「外だった」


「洞窟の前」


私は息を止めた。


洞窟。


私が来た場所。


ルークとサラがいた場所。


「サラは?」


「いた」


「俺が掴んでた」


ルークは自分の手を見る。


「泣いてた」


「寒くて」


「俺も熱くて」


「でも寒くて」


熱。


寒さ。


転移。


小さい体。


私は黙って聞く。


「母さんは?」


聞きたくなかった。


でも聞いた。


ルークは首を横に振った。


「いなかった」


そうか。


私は思う。


そうか。


私は息を吐く。


ゆっくり。


かなりゆっくり。


今、怒ったら駄目だ。


ルークがここまで話した。


ここで私が怒ったら。


この話は、怖い話になる。


ルークが言ったから怒った。


そうなってしまう。


それは駄目だ。


私はルークを見る。


「話してくれて」


「ありがとう」


ルークは顔を上げる。


「怒らない?」


私は少し黙る。


難しい。


かなり難しい。


「怒ってる」


ルークの目が揺れる。


私はすぐ続ける。


「でもルークにじゃない」


ルークは黙る。


「サラにもじゃない」


「二人は悪くない」


ルークの手が震える。


私はゆっくり手を出す。


触っていいか。


少し待つ。


ルークは逃げなかった。


だから手を重ねる。


小さい手。


でも硬い。


握りしめすぎていた手。


「悪くない」


私は言う。


「ルークはサラを守った」


ルークは目を伏せた。


「守れた?」


私は答える。


「うん」


「今、サラはここにいる」


ルークの目がサラを見る。


サラは寝ている。


何も知らない顔で。


少し口を開けて。


寝ている。


ルークはそれを見た。


長く。


長く。


それから、小さく頷いた。


「いる」


「うん」


「いる」


私は言う。


「明日」


「話を聞く」


ルークの手がまた少し強くなる。


「母さん?」


「うん」


「でも」


私はルークを見る。


「決めるのは」


「大人だけじゃない」


ルークは私を見る。


「ルークの話も聞く」


「サラのことも見る」


「勝手に決めない」


ルークは黙った。


少しして聞いた。


「行かなくていい?」


私は答える。


「行きたくないなら」


「行かなくていい」


ルークの目が大きくなった。


驚いた顔だった。


どうして驚くのか。


分かる気がした。


今まで。


行けと言われたら。


行くしかなかったのだ。


私は続ける。


「でも」


「明日、話は聞く」


「何を言うのか」


「全部」


ルークは小さく頷いた。


「みーも?」


「行く」


「おばちゃんも」


「ギルマスも」


「一人じゃない」


ルークは少しだけ息を吐いた。


本当に少し。


でも聞こえた。


私はそれを聞いた。


火が小さくなる。


夜が深くなる。


外で風が鳴る。


春の夜。


冬より少し暖かい。


でも。


今は少し寒い。


私は毛布を一枚取る。


ルークの肩に掛ける。


「寝よう」


ルークは頷く。


でも動かない。


私は待つ。


少しして、ルークが立った。


寝床へ行く。


サラの横。


少し離れて。


でも近い。


ルークは横になる。


目はまだ開いていた。


私は火を小さくする。


イナが入口で顔を上げた。


私を見る。


私は小さく頷く。


「大丈夫」


大丈夫かどうかは分からない。


でも。


今夜は。


ここにいる。


みんな。


私は入口を見る。


外は暗い。


明日。


町へ行く。


母親だと言う女に会う。


話を聞く。


言わせる。


全部。


私は火を見る。


怒るのは。


その後だ。


多分。


いや。


多分ではない。


その後だ。

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