第30章 ②-3 預けた
私は頷く。
「連れて行った」
女は小さく頷いた。
「でも」
「でも?」
女は顔を上げる。
「仕方なかったんです」
来た。
仕方なかった。
私は頷く。
「何が仕方なかったのですか?」
女は少し早口になる。
「夫が死んで」
「食べる物もなくて」
「家も追い出されて」
「二人を抱えて」
「どうにもならなくて」
「ルークには魔力があって」
「王都なら」
「王都の施設なら」
「食べ物もあって」
「暖かい場所もあって」
「魔力持ちなら育ててもらえるって」
私は聞く。
「誰に言われたんですか?」
女は黙る。
「誰に?」
「町に来た男です」
「名前は?」
「知りません」
「どんな人?」
女は答える。
服。
指輪。
馬車。
王都の人間らしい話し方。
私は全部聞く。
覚える。
「その人は研究所の人?」
女は首を振る。
「分かりません」
「でも、紹介状を持っていました」
「どこへの?」
「王都の研究所です」
私は頷く。
「研究所に連れて行ったんですね」
女は唇を震わせる。
「はい」
「そこで」
「子供達を預けた」
預けた。
出た。
私はその言葉を拾う。
「預けた」
女は頷く。
「預けました」
「いつ迎えに行くつもりだったの?」
女は黙った。
「一日後?」
「一月後?」
「一年後?」
女は答えない。
私は続ける。
「手紙は?」
「送った?」
女は首を横に振る。
「会いに行った?」
首を横に振る。
「探した?」
女は黙る。
私は少しだけ声を低くする。
「探した?」
女は目を伏せた。
「……探せませんでした」
「どうして?」
「研究所には、入れなくて」
「門の前で追い返されて」
「王都で暮らすのもやっとで」
「お金もなくて」
お金。
私はそこを見る。
「お金」
女が止まる。
私は続ける。
「預けた時お金は受け取った?」
女の顔が青ざめた。
ギルマスが動いた。
おばちゃんも動いた。
部屋の空気が変わる。
女は唇を開く。
閉じる。
私は待つ。
長く。
長く。
「受け取った?」
女は小さく言った。
「……少し」
少し。
私は頷く。
「いくら?」
女は答えない。
「いくら」
もう一度。
女は小さな声で答えた。
金額。
私はその金額を聞いた。
正しい価値は分からない。
でも。
ギルマスの顔で分かった。
安い。
かなり。
おばちゃんの顔で分かった。
酷い。
私はゆっくり息を吸う。
吐く。
まだ。
まだだ。
「そのお金は何のお金?」
女は泣きそうな顔をした。
「旅の」
「生活の」
「二人を王都へ連れて行った謝礼だと」
謝礼。
私はその言葉も拾う。
「謝礼」
女は頷く。
「売ったつもりはありません」
「預けただけです」
私は黙る。
部屋が静かになる。
私は女の言葉を頭の中で並べる。
王都へ行った。
研究所へ連れて行った。
紹介状があった。
子供達を預けた。
迎えの予定はない。
手紙もない。
会いにも行っていない。
探していない。
お金は受け取った。
売ったつもりはない。
私は女を見る。
「分かった」
女が顔を上げる。
少しだけ安心した顔。
早い。
安心するのは早い。
私は言う。
「あなたはルークとサラを研究所へ預けた」
「お金を受け取った」
「一年、探さなかった」
女の顔が歪む。
「違います」
私は首を傾げる。
「どこが?」
女は言葉に詰まる。
「違うんです」
「私は母親です」
「迎えに来たんです」
迎えに。
今。
一年後に。
私は聞く。
「どうして今?」




