第30章 ①-1 夜
夜になった。
ご飯を食べた。
片付けもした。
洗濯物も取り込んだ。
少し湿っていた布は、家の中へ掛けた。
畑の柵も見た。
イナが掘っていないか確認した。
掘っていなかった。
いつも通りだった。
いつも通りにしようとした。
でも。
家の中は静かだった。
静かすぎた。
サラは眠そうにしている。
ニコも眠そうだった。
昼間、泡で遊びすぎた。
ミラは二人に水を飲ませている。
カイルは火の側に座っている。
いつもより少し背中が固い。
ルークは黙っていた。
ご飯も食べた。
スープも飲んだ。
でも、いつもより少し遅かった。
私はそれを見ていた。
見ているだけだった。
聞かない。
今は聞かない。
言える時でいい。
そう言ったのは私だ。
だから待つ。
春は待つことが多い。
本当に多い。
私は火を見る。
ぱち。
小さな音がした。
サラが私の膝に頭を乗せる。
「みー」
「うん?」
「おかあさん、くる?」
私は少し考える。
嘘はつかない。
でも。
全部は言えない。
「明日会うかもしれない」
サラは目をこする。
「おかあさん」
その言葉に。
ルークの肩が少し動いたのが見えた。
でも何も言わない。
サラは私を見る。
「みーも、くる?」
私は頷く。
「行く」
「おばちゃんもギルマスも」
サラは少し安心した顔をした。
「ルークも?」
私はルークを見る。
ルークは火を見ている。
私は答える。
「ルークが行くなら」
サラは首を傾げた。
「いく?」
ルークは答えない。
サラは眠そうに、私の服を掴んだ。
「みー、いくなら」
「いい」
私はサラの頭を撫でる。
「うん」
「一緒」
サラは頷いた。
それから目を閉じた。
眠るのが早い。
小さい子はすごい。
ニコもミラの横で寝落ちしかけている。
ミラがそっと毛布を掛ける。
カイルが火を少し小さくする。
家の中が、さらに静かになる。
イナは入口の近くで丸くなっている。
でも耳は動いている。
外を聞いている。
偉い。
私はサラを寝床へ運ぶ。
軽いな。
でも、私にとっては重い。
変な話だ。
体は軽く持てる。
心はそうではない。
私はサラを寝かせる。
ニコも寝かせる。
ミラも横になる。
カイルは少し遅れて横になった。
まだ起きていたそうだったけど。
寝るように言った。
「明日は忙しい」
カイルは黙って頷いた。
そして横になった。
ルークだけが起きている。
火の前。
小さな背中。
私はその横に座る。
近すぎない。
遠すぎない。
ルークは何も言わない。
私も何も言わない。
ぱち。
火が鳴る。
外で風が鳴る。
春の風。
冬より弱い。
でも夜はまだ冷たい。
しばらくして。
ルークが言った。
「母さん」
小さい声だった。
私は頷く。
「うん」
「来たの?」
「そう言ってる」
ルークは火を見たまま。
「本当に?」
私は答えない。
答えられない。
「まだ分からない」
ルークは頷いた。
分かっていたみたいだった。
少しの間。
何も言わない。
私は待つ。
やがてルークが言った。
「夢だと思ってた」
私はルークを見る。
「何を?」
ルークは毛布を握った。
「白い部屋」
私は息を止めそうになった。
でも止めない。
ゆっくり吸う。
ゆっくり吐く。
「白い部屋」




