表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
204/217

第29章② 水

第29章② 水


水桶を持つ。


春になっても。


水は重い。


「持つ?」


私は頷く。


ルークも小さい桶を持つ。


水は半分だけ。


それでも慎重だった。


ミラは布を持っている。


サラとニコは小さな器を持っている。


器。


かなり小さい。


でも二人は真剣だった。


イナは何も持っていない。


持てない。


畑の前へ戻る。


小さな芽がある。


本当に小さい。


ここに水をやる。


でも。


やりすぎたら駄目。


私は土を見る。


乾いているような。


乾いていないような。


よく分からない。


家庭菜園はしたことがある。


少しだけ。


ほうれん草


じゃがいも。


ミニトマト。


キュウリ。


大根。


ネギ。


バッタ…。


あれは強敵だった。


ここにも虫はいる。


絶対いる。


考えたくない。


今は水だ。


私は小さな器を取る。


水を少しすくう。


芽から少し離れた土へ。


そっと垂らす。


ちょろ。


少しだけ。


土の色が変わる。


黒くなる。


私は頷く。


「このくらい」


ミラがしゃがむ。


「芽に直接かけないのですか?」


私は少し考える。


「小さいから」


「倒れるかも」


「周りに」


「少し」


ミラは真剣に頷く。


「周りに、少し」


カイルも見る。


「全部に?」


「うん」


「でも少しずつ」


ルークが小さい桶を置く。


「水、多すぎると?」


私は答える。


「根が腐る」


言ってから止まる。


根。


腐る。


伝わるだろうか。


ルークは少し考える。


「土の中で駄目になる?」


「うん」


「多分」


ルークは頷いた。


分かったらしい。


サラが器を持ち上げる。


「みず」


「うん」


私はサラの手を支える。


「ちょっと」


「ここ」


サラは真剣だった。


真剣すぎて。


器を傾けすぎた。


ばしゃ。


土が濡れた。


かなり。


サラが固まる。


私も固まる。


ニコも固まる。


イナだけが楽しそうに見ている。


サラの顔が不安そうになる。


「だめ?」


私は濡れた土を見る。


芽は無事だった。


多分。


「大丈夫」


「ここは」


「今日は水いらない」


サラはほっとした顔をした。


「みず、あげた」


「うん」


「あげた」


ニコもやりたがる。


当然だった。


私はニコの器を持つ。


「ちょっと」


ニコは頷く。


真剣だ。


今度は私がほとんど持つ。


ちょろ。


少しだけ。


「できた」


ニコが言う。


「できた」


私は頷く。


「できた」


イナが近付く。


私は見る。


「イナ」


イナは止まる。


濡れた土を見る。


鼻を近付ける。


こら、やめて。


「掘らない」


イナは私を見る。


「掘らない」


イナは座った。


座ったけれど。


目が土に向いている。


信用はしていない。


私は石の境目を見る。


やっぱり。


柵がいる。


石だけでは弱い。


イナにも。


サラにも。


ニコにも。


私にも。


多分。


カイルが言う。


「枝を立てる?」


私はカイルを見る。


「枝?」


「畑の周りに」


「低く」


「紐を結ぶ」


なるほど。


柵。


小さい柵。


良いね。


私は頷く。


「それ作りたいね」


カイルはすぐ立つ。


「枝、取ってくる」


ルークも立つ。


「行く」


私は二人を見る。


森。


近くなら大丈夫。


でも。


「遠くは駄目」


二人は頷く。


「家が見えるところ」


「うん」


イナが立つ。


行く気だ。


私は少し考える。


「イナ」


「一緒」


イナの尻尾が揺れる。


「でも」


「泥、駄目」


イナは聞いていない顔だった。


駄目だ。


カイルとルークとイナが、近くの林へ向かう。


ミラは水やりを続ける。


サラとニコはそれを見る。


私は土を見る。


水をやった場所。


まだやっていない場所。


分かりにくい。


じょうろが欲しい。


細く水が出るやつ。


優しく撒けるやつ。


穴の開いた先っぽ。


昔、家にあった。


緑色だった。


私は桶を見る。


器を見る。


水を見る。


作れないだろうか。


穴。


細い穴。


木の器に穴を開ける?


でも、水を入れたらずっと出る。


持ち上げる前に漏れる。


蓋。


注ぎ口。


いや。


難しい。


私は考える。


考える。


ミラが聞く。


「どうしました?」


私は答える。


「水撒き道具」


ミラが首を傾げる。


「水撒き」


「うん」


「優しく、広く水を撒く道具」


ミラは少し考える。


「薬草畑で使う桶なら、見たことがあります」


私は止まる。


「ある?」


「はい」


「細い口が付いていて」


「傾けると、水が細く出ます」


私はミラを見る。


あった。


あったらしい。


異世界にも。


じょうろの仲間が。


私は少し嬉しくなる。


「欲しい」


ミラは苦笑した。


「商会に聞けば、あるかもしれません」


商会。


商人。


昨日、線を引いたばかり。


でも。


買い物はいい。


頼りすぎるのと。


買うのは違う。


私は頷く。


「今度」


「買う」


「頼むじゃなくて」


「買う」


ミラは私を見る。


少しだけ、何か分かった顔をした。


「はい」


「買いましょう」


うん。


買おう。


便利は大事。


でも。


商会の仕事と、私の家の仕事は別。


私は畑を見る。


小さな芽。


水を待っている。


私達の手で。


水をやる。


それでいい。


カイル達が枝を持って戻ってきた。


ルークも細い枝を抱えている。


イナは。


枝を一本咥えていた。


大きい。


かなり大きい。


どこから持ってきた。


「イナ」


イナは誇らしそうだった。


カイルが少し笑う。


「それ、使えるかも」


私は枝を見る。


太い。


重い。


でも畑の角には良さそうだった。


「使う」


イナの尻尾が大きく揺れる。


自分の仕事だと思ったらしい。


良い。


掘るより良い。


カイルが枝を短く折る。


ルークが並べる。


ミラが紐を持ってくる。


サラとニコは小さい枝を運ぶ。


私は水やりを終えて、畑の角を見る。


枝を立てる。


土に差す。


少しぐらつく。


カイルが押し込む。


「こう?」


「うん」


「いい」


ルークが反対側に枝を差す。


真剣な顔だ。


ミラが紐を渡す。


カイルが結ぶ。


ルークも真似をする。


少し緩い。


でも結べている。


サラが拍手した。


「できた!」


まだできていない。


でも。


少しできた。


私は頷く。


「できてきた」


ニコも拍手する。


イナも尻尾を振る。


畑の周りに。


低い枝の柵ができていく。


とても簡単なもの。


強く押せば倒れる。


犬が本気を出せば越える。


ニコが転べば壊れる。


でも、境目よりは強い。


ここは畑。


ここは守るところ。


そう見える。


私は少し息を吐く。


春は。


芽が出る。


水をやる。


柵を作る。


やることが増える。


かなり増える。


でも。


一人ではなかった。


ルークが枝を立てる。


カイルが押し込む。


ミラが紐を結ぶ。


サラとニコが小枝を運ぶ。


イナが大きな枝を自慢する。


私はそれを見る。


食べる人が増えた。


でも。


手も増えた。


声も増えた。


笑う人も増えた。


私は畑に少し水を足す。


ちょろ。


土が黒くなる。


小さな芽が、春の光の中で揺れた。


水をやった。


柵もできた。


今日は。


少し前へ進んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ