第4章 勇者の初期装備➂
第4章 勇者の初期装備③
兄は集めた薬草を薬師へ渡した。
薬師は中身を確認する。
そして小さく頷いた。
「今日は多いね」
兄は黙ってこちらを見た。
目を逸らす。
少しだけ心当たりがあった。
薬師は苦笑する。
代わりに小さな袋を渡した。
少し気になる。
「何それ?」
兄は答える。
「塩」
袋を覗き込む。
白くなかった。
少し灰色だった。
異世界の塩らしい。
薬師は不思議そうにこちらを見る。
塩を見る。
もう一度塩を見る。
気になった。
次はパン屋だった。
兄は束ねた薪を渡す。
パン屋の親父は受け取る。
そして笑った。
「今日は多いな」
兄はまたこちらを見た。
目を逸らす。
かなり心当たりがあった。
親父は笑いながらパンを渡した。
兄は当たり前のように受け取る。
次は屋台だった。
おばちゃんは木の実を見る。
兄を見る。
こちらを見る。
そして吹き出した。
「また来たのかい」
頷く。
「うん」
おばちゃんは笑う。
木の実を受け取る。
代わりにコルンを渡した。
少し気になる。
「コルンポップ売れた?」
おばちゃんは笑った。
「あっという間だったよ」
少し満足した。
おばちゃんは続ける。
「子供が喜んでね」
「今度はもっと作るつもりさ」
頷く。
良かった。
それなら良かった。
兄は受け取った荷物を袋へ入れる。
パン。
コルン。
塩。
それを見ながら少し考えた。
不思議だった。
お金は見えない。
値札も無い。
でも。
ちゃんと物が動いていた。
兄は慣れた様子だった。
薬師は薬草を受け取る。
パン屋は薪を受け取る。
屋台は木の実を受け取る。
代わりに少しずつ何かを返す。
少し似ている。
田舎のお裾分けに。
正直に言えば。
あまり得意ではなかった。
何かを貰う。
何かを返す。
また何かを貰う。
少し面倒だった。
人付き合いは苦手だった。
出来るなら一人の方が楽だった。
でも。
見た事はある。
そんな感じだった。
貨幣や貨幣の代わりが流通する前は、物々交換が始まりだったはずだ。
なら。
これもそんなに不思議ではないのかもしれない。
働いて対価を貰う方が分かりやすい。
けれど。
兄にとっては違うらしい。
兄は薬師へ頭を下げた。
薬師も頷いた。
それだけだった。
案外。
人のやる事はどこの世界でも変わらないのかもしれない。
少なくとも。
コルンポップは売れた。
それで今は十分だった。




