第21章 ⑧
第21章 ⑧ イナ
朝になった。
目を開ける。
近い。
かなり近い。
サラの頭がある。
チビの手もある。
犬の足もある。
何故だろう。
私は少し動く。
動けない。
サラが私にくっついている。
チビもくっついている。
犬もくっついている。
暖かい。
でも重い。
私は犬を見る。
犬は寝ていた。
かなり幸せそうだった。
信用できない寝顔だった。
外は静かだった。
昨日の風の音は無い。
白い音も無い。
代わりに。
しん。
そんな静けさだった。
私はそっと起きようとする。
サラがむにゃ、と言った。
チビも動いた。
犬が目を開けた。
そして尻尾を振る。
布が動く。
サラが起きる。
全員起きる。
犬。
お前。
私は犬を見る。
犬は嬉しそうだった。
朝になった。
無事だった。
私は戸の方へ行く。
少しだけ開けた。
白い壁だった。
おばちゃんが横から覗く。
「こりゃあ、六十はあるねえ」
六十。
私はルークを見る。
ルークの腰。
サラを見る。
サラの胸。
チビを見る。
埋まる。
多分。
無理。
これは無理。
でも、全部が雪ではなかった。
家の横。
お風呂の方だけ、雪が少ない。
湯気が出るからだろうか。
炉の熱もある。
地面が少し見えている。
そこだけ別の場所みたいだった。
犬が戸の隙間から外へ出ようとする。
私は首を掴む。
「待っ」
犬は待たなかった。
すり抜けた。
速い。
犬は雪へ突っ込んだ。
そして消えた。
私は止まる。
サラも止まる。
チビも止まる。
ルークも止まる。
カイルも止まる。
お姉ちゃんも止まる。
おばちゃんも止まる。
犬がいない。
少しして。
雪の中から顔が出た。
犬だった。
犬は尻尾を振っている。
見えない。
多分、振っている。
雪がもこもこ動いている。
犬は喜び庭駆け回る。
庭は無い。
雪しかない。
でも犬は喜んでいる。
何故だろう。
楽しそう。
理解はできない。
犬は雪の少ない方へ走った。
お風呂の方だった。
そこは雪が溶けている。
地面が見えている。
見えているということは。
雪ではない。
土だった。
濡れた土だった。
犬が走る。
跳ねる。
転がる。
私は止まる。
白かった犬が。
茶色くなっていく。
雪の朝だった。
外は白い。
でも。
犬だけ泥だった。




