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閑話 おふろ

閑話 おふろ


妹は待っていた。


かなり真剣に。


樽の前だった。


まだ水だった。


犬は樽を覗く。


妹を見る。


樽を見る。


そして水を飲もうとした。


「だめ!」


妹が止めた。


冷たい。


まだ入れない。

「おふろ!」


「まだ」


「おふろ!」


「まだ」


「おふろ!」


「まだ沸いてない」


でも待っていた。


私は鍋を見る。


まだ沸いていない。


妹も見る。


しばらくして。


妹が鍋へ近付く。


じっと見る。


さらに見る。


そして小さく言った。


「がんばれ」


私は吹いた。


妹は不思議そうな顔をする。


何故笑われたのだろう。


そんな顔だった。


私は鍋を見る。


「まだ」


妹は頷く。


分かったらしい。


しかし。


五分位後だった。


妹はまた鍋の前にいた。


見ていた。


そして。


「がんばれ」


応援再開。


鍋は返事をしない。


当然だ。


妹は少し考える。


そして今度は火を見る。


「がんばれ」


火も返事をしない。


当然だ。


兄は横を向いた。


笑っていた。


私は鍋を混ぜる。


別に混ぜる必要は無かった。


笑うのを誤魔化していた。


さらに十分後。 


妹は樽を覗く。


湯気だった。


少し出ている。


妹の目が輝いた。


「おふろ!」


「まだ」


「おふろ!」


「まだ」


妹はむうっとした。


やがて。


ようやく湯が溜まる。


私は温度を見る。


大丈夫だった。


多分。


私は頷く。


「いいよ」


妹が走る。


兄より早かった。


犬より早かった。


多分。


そして樽へ辿り着く。


勝利の顔だった。


とても可愛い笑顔だ。


妹は両手を上げて宣言する。


「おふろ!」


誰も反論出来なかった。


確かに。


おふろだった 。


後日談


雪が降ってかなり寒かった。


妹は毛布へ潜っている。


出てこない。


私は朝食を作る。


兄も起きている。


その時だった。


妹が毛布の中から聞く。


「おふろ?」


「夜」


妹は静かになった。


少ししてまた聞く


「おふろ?」


「夜」


妹は再び静かになった。

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