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極貧孤児に転生したので、親を探して文句を言おうと思う  作者: 安野 吽
後編・魔帝国編

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◇幕間 傷を誇らば(アルベール視点)

 シーリが、謁見の間のさらに奥。最上階へ続く階段へと突入した後も……。


 僕たちは変身した双魔の賢女たちと熾烈な戦いを繰り広げていた。


「喰らうがいい!」

「ラエル、飛べ!」

「ぐっ!」


 エクレが変身した深紅の孔雀――その嘴から炎のブレスが放たれ。


「逃がさぬ!」


 トルテが変身した紺碧の大蛇――顎に並んだ毒牙がこちらに迫る。


「下がれ、アルベール! うおおおおおっ!」


 ラエルが振りかざした黒い大剣が、何とかその突進を受け止め、吹き飛びながらも弾き返す。

 信じ難い膂力だ。


 だが、やつらはその様子にもまるで動揺しない。


「クカカッ……結局お前たちは神から力を賜れなかった聖女や魔女の下位互換。そんな者たちに我々をどうこうできるはずがない」

「シュルシュル……丸焼きにされるが、毒で溶かされるか好みの方を選ぶがいいぞ」


 獣じみた奇妙な笑声を発しながら迫る、二体の巨大な化け物。

 僕らといえば、まるで英雄譚の登場人物にでもなった気分だ。


 迫る絶体絶命。だが、それらを前に……僕らは不敵な笑みを返した。


「はは……なんだか楽しくなってきちゃったよ。なあ、僕たち言われっぱなしでいいと思うかい、ラエル」

「まったく思わんな。やつらの思い上がり、叩き潰してやるか」


 どうやら……僕と同じように、まだまだラエルも本気を出していなかったみたいだ。

 巨大な剣を大きく振り回して、魔女たちを威嚇する。

 ここは、片方をあしらいつつお手並み拝見といこうか――。


「どっちを料理したい? 好きな方を選んでいいよ」

「ならば、鳥の方は貴様がやれ。王族に蛇なんて食わせれば、後でどんなケチを付けられるかわからん」

「お気遣いどうも。さ……やるか」


 僕は、その場から右手の砕けた柱上へと跳躍。隠し持っていた短剣を投げ放つ。傷は与えられないが、孔雀(エクレ)の注意がこちらに向いた。


「さて……本当に魔女の下位互換か、試してもらおう」


 同時に大蛇(トルテ)を縫い留めるようにラエルが異様な気配を放ち、重たい声を発した。

 あちらもわずかに顔色を変え、警戒を示す。


「……軍団長め。そういえば貴様……悪魔憑きであったか」

「その言われ方は心外だが……。まあ、並みの魔法騎士との違い……とくと味わえ」


 へえ……。魔力を高めたラエルの姿が、徐々に人外へと変わってゆく。


 そういえば……魔帝国では度々歴史の端々で悪い悪魔が現れ、国に大きな被害を及ぼした――なんて話を誰かさんから聞いたっけ。その正体が……これなのか?

 彼とシーリの母親はかなり強い魔女だったと聞くし……。


 ラエルの瞳の色が従来の黒から紫に代わり、耳や歯が尖り切った瞬間――黒い影となって動く。


「ヒィィッ!」


 血飛沫と悲鳴が同時に上がった。

 さすがだな。その刃が、先程の衝突では微塵も傷のつかなかった大蛇の鱗を、浅く切り裂いている。


「ふう……。母から受け継ぎし強大な魔力で身体を変質させたのだ。あまり長くは保たんが、その蛇皮、叩いてなめすくらいは……やってのける!」

「舐めた口を!」

「弱男風情に後れを取るなよ!」


 怒り狂う巨蛇とラエルが互角以上の立ち回りを見せ始め……今度は孔雀の意識がそちらに向いたのを僕は見逃さない。

 密かに背面に回ると、片方の翼を鋭く切りつけた。


「ギャァッ、貴様! どうやって我が羽の守りを!」

「シェルウッド製の剣を甘く見たね。これにだって、聖王国数百年の叡智が刻み込まれてるんだからな」


 二百年以上も生きて来たという彼女たちとて、聖騎士と戦った経験なんてそうはないはず。


 僕たちは、逆立ちしたって聖女には敵わない。それはこの世の定めだ。

 だけど……手の届かない彼女たちの活躍を見守りながら、いつだって夢に描いていた。自分たちにもっと強い力があったなら……。強い悔しさを胸に、それでも限られた力で国を守ろうと足掻いてきた。


 そのことに意味があったというのなら……結実させるのは、今この場だ!


(力の量が足りないなら、研ぎ澄ませ。切っ先……それも一点、刃を差し込むそのわずかな接地点に、うんと力を集中させる……!)


 極限まで神経を尖らせ、剣を自分の身体のように振るう。

 今は身体に沁み込んだ先人たちの数々の教えが、勝手に僕の身体を動かす。相手の攻撃を躱し、斬る。


「……くっ⁉ ちょこまかと」


 一度で仕留めようとしてはいけない。幾多の相手への攻撃の中に紛れ込ませ、本命を――。


 孔雀が連続して、燃え盛る羽や嘴から炎の球を放つも、僕はそれをすり抜け相手の周り舞い続ける。

 そして母上から授かった奇跡――対象を定める力ではここで遺憾なく力を発揮してくれ、やつの力の集まる場所……致命的な弱点部位を僕の目に晒し出す。


「そこだっ!」

「ク⁉ なぜっ……!」


 孔雀が驚きに硬直し、こちらの狙いを察する。

 だがもう遅い……今まで培った鍛錬の成果が、それよりも早く。

 自然と切っ先をそこ――喉元にある、長杖に嵌められていた宝玉へと誘う……!


 ――カシュンッ!


 さすがに、膨大な魔力の集中した場所は堅かった。

 だが、体内から全ての聖力を絞り出すと、それは軽い音を立てて貫かれ……。


「やめっ……ク――アァァァァァッ……‼」

 

 砕けると、化け物の身体に凝縮されていた魔力が、強い光を放ち爆発。僕が後方に吹き飛ばされながらもなんとか着地すると、孔雀は見る見るうちに縮み、失神したひとりの魔女に戻っていった。


「ふう……なんとかなったな。さて……ラエル! 彼女らの弱点は首元の宝玉――」

「グエェェェッ!」

「あら……?」


 ――ズドォォォォン……。


 巨岩でも落ちたような音を立て、身体中を切り裂かれた大蛇が倒れ伏す。

 その姿が徐々に縮んでゆき、その陰から身体中を傷だらけにしたラエルが現れる。


「……どうやって倒したんだい?」

「…………? わけのわからん化け物だ。斬って叩いた。それ以外に方法があったのか?」

「グ……ゥ……まさか魔法騎士風情に……」

「魔力が切れるまでぶっ叩いたのか……恐ろしいやつだな」


 まるで当たり前のように真顔で告げるラエルの足元で、大蛇がトルテの姿に戻る。

 笑えばいいのか感心すればいいのか……ともかく、見た目ほど大した怪我はしていないようでなにより。


「さすがだよ、魔帝国軍団長殿」

「ちっ……お前が負けて俺が両方倒せば、格の違いにシーリを諦めさせられるところだったんだが」

「お前ね……」


 この状況であくまで妹の心配を欠かさない兄に僕ががくりと肩を降ろすと、ラエルは……「俺より弱い男にあの子が渡せるか」とでも言うように、ふんと鼻を鳴らした。


 ともかく、これでシーリを追える。

 急ごう……そう頷き合った瞬間。


 ゴゴゴッ――……巨大な振動が月映宮を襲う。


「うっ……⁉ い、一体何が!」

「戦いが佳境に入ったか。ゆくぞ」

「ああ!」


 こう見えて、さすがに両方ともさっきの戦闘の疲れは大きい。

 でも、ここでゆっくり休んでいるわけにもいかない……。

 メナの力は得体が知れない……シーリが誰かの力を必要とする場面も、きっとあるはず。


「シーリ、無事でいろよ!」

(く、僕の台詞を……)


 ラエルが走り出し、先に言いたいことを言われた僕も猛然と後を追う。


 でもよかった、ここにこいつがいてくれて……。

 古馴染みの仲間と減らず口を叩き合い、不安をやり過ごしながら僕たちは頂上へと至る階段を勢いよく駆け上がってゆく――。


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