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極貧孤児に転生したので、親を探して文句を言おうと思う  作者: 安野 吽
前編・聖王国編

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24・作戦の始動

 ――正午。出現予定時刻が間近となり、緊張感が最大限に高まる中。


 四つの班に分かれた聖女たちにマール様の号令が響く。


「では、指定されたものは四方に散り、魔物たちの出現に備えよ! 時刻は現在から一時間後のいずこかだ。速やかに持ち場につき、魔物が出現次第騎士団を援護! 中型の存在が確認できたら、そちらの処理を優先しろ!」

「「はいっ!」」


 聖女たちが、野営地の奥に広がる荒野を包囲する形で移動していく。


 すでにそこでは兵士たちによる巨大な円陣が組まれており。

 私は高台の上で指揮を執るマール様の傍ら、護衛の騎士たちと共にそれを見守る。


「ちなみに、これまでマール様と法研の予測が外れたことって……」


 魔物の出現を一瞬も見落とすまいと彼方を睨むマール様に、気詰まりになった私は尋ねた。彼女は視線を外すことなく答える。


「ないな。多少時刻がずれることはあったにしろ、やつらは必ず現れる。ここを訪れる前にも“視た”からな」


 マール様曰く……記憶の奇跡で閲覧できる分岐先の未来は、時期が近づくにつれ数を減らし、誤差をなくす。つまり、ここに魔物が現れることにほぼ、間違いはない。


「ただし……私が世界書の記憶より知り得たのは、この地で戦いが始まった事実まで。多くの人間の思惑が入り混じる未来ほど、想定外が起きやすくなる。もし何かあれば、お前はすぐに聖都へ戻らせるからな。その準備だけはしておけ」

「わかってます」


 特別扱いのようで気は引けるが、実戦経験の少ない新人がここに残っても大したことはできまい。彼女の隣で魔物の観察に徹することにし、私も目の前の光景に集中する。


 その内に――なんとも言い難い不気味な振動が鼓膜を襲った。


「嫌な感じ……」

「この空を引き裂く不快な音……。来るぞ、やつらだ」


 マール様がそう言うやいなや、ビヂッと――布を何重にも重ねて裂いたような音で空が裂けた。


「あ……!」


 青い背景に漆黒のひび割れが生じ横に伸びたかと思うと、どろりと何かが地面に零れた。光を写さない黒色の、ねっとりと丸みを帯びたゼリーのような物体。まさしく、私が前に見たやつと同じ。


 それを皮切りに、次々と計二十を超える魔物の姿が陣形の内側に出現する。

 大きな号令が響き渡った。


「――よし、皆行くぞ! 出現したての魔物は動きが鈍い! 先にやつらを叩き潰し、中型との戦いに備える!」

「「おおおっ!」」


 アルベール様の掛け声とともに、各所に散っていた兵士たちが攻撃する。多くは前に研究室で見たようなボウガンを所持し、隊列を組んだ盾持ち兵の陰から銀色の矢雨が猛然と飛ぶ。


 聖筒付きの矢は命中するやいなや魔物の身体に取り込まれ、数秒後ぱっと眩しい光を放ち魔物の身体を削り取っていった。だが完全に消滅させることは難しいのか、魔物はダメージを負いながらも、小さくなった身体であちこちを這い回る。


「やあぁっ!」


 そこにトドメを差すのが、アルベール様を始めとした聖騎士たちだ。シェルウッド製の剣を手に馬上から飛び降り、容赦ない斬撃で仕留めてゆく。


「おお~……どんどん数が減っていきますね」

「ああ。小型の中でも比較的大きな個体が多いが、団長殿の指揮もある。このままなら余裕をもって押し切れるだろう。問題は後から出てくる中型の方だが……」


 中型以上のサイズになると、物質の吸収速度が聖筒のダメージを上回ってしまい、法具での攻撃はほぼ無効化してしまうのだとか。聖騎士の聖力を込めた剣でも決定的なダメージが与えられず、討伐は聖女の奇跡頼みとなる――。


(でも……これだけの戦い慣れた聖女達がいれば、安全に討伐を済ませられるはず)


 今も兵士たちの守りが突破されそうになると、適宜聖女達が奇跡で魔物達を押し返している。マール様じゃないけど、この連携具合が突破される未来は見えないな。よっぽどのことがない限り、このまま観察を続けていられそうだ。


 今のところ、宙にできた黒い裂け目は少しずつ長さを拡大し、互いに繋がったりして大きくなってきている。あれが開き切った時、中型サイズの魔物が出てくる……そんな気がする。


(ってことは……あの裂け目の向こう側には魔物達がうじゃうじゃ詰め込まれてたりして)


 実は、私たちとやつらのいる世界は実は一枚の薄いシートでしか隔てられていなくて……それが破れると魔物が際限なく湧き出してくる、とか。


 自分の想像にゾッとしながらも、そこでひとつ疑問が湧く。


(この場であることにも、何か理由があるのかしら?)


 そのあたりの仕組みは、長年魔物の問題に携わっているマール様の方が詳しそうだ。私が彼女に、魔物の出現場所に通じる共通点があったりしないか、尋ねようとした時だった。


「聖女シーリ様、少しよろしいですか。ある方からお手紙を渡すように頼まれまして」

「はあ、どうも。どなたからでしょう」

「名前は告げられませんでしたが、焦げ茶色の三つ編みを提げた聖女様です」

(リナか。どうして今……?)


 マール様は戦況を見守るのに集中し、こちらに目を向けていない。


 近づいて来たひとりの兵士から渡された手紙を封切ると、静かに中身を取り出す。そして――。


「――――! マ、マール様。すみません、私ちょっとお腹が痛くなっちゃって、お花詰みに……」

「……ちっ、すぐに戻れよ!」


 マール様の冷たい視線におほおほ笑って返しつつ、私はその場を離れ……小走りになって駆け始める。


「……いったい、何が起きてるのよ!」


 内容を無視できるはずもなかった。

 なにせ……その文面には。


【お友達の身柄は預かりました……。おひとりで、東の森までいらしてください。もし、このことを誰かに知らせたり、無視したならば……彼女のお命はありません】


 指を震わせながら描いたような小さな文字で、そう記されていたのだ。脅迫の交換条件にできるような特別仲のいい友人なんて、私にはひとりしか思い当たらない。


「ポピア、無事でいて……!」


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