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極貧孤児に転生したので、親を探して文句を言おうと思う  作者: 安野 吽
前編・聖王国編

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18・中間表彰式

 中間表彰式の始まりを告げるは、金盞花の三乙女たちそれぞれの全体に向けたメッセージ。


 次に列席者――聖王国の重鎮たちからの祝辞、今期に聖王国で起きた大まかな事件の概要と続き。そして、直近で大きな功績を残した班の表彰へと続いていく。


「――代表者、ミシェル・グランツ。前へ」

「はい」


 そこでなんと……第五班は第三位へと入賞した。


 私はまだ見習いのため多くは知らないが、実はミシェル班長は現在二十名しかいない白薔薇級の中のでも指折りの実力者。次の金盞花の聖女候補として名が上がるほどなのだとか。


 壇上に上がった彼女に、私たちは惜しみない拍手を送る。


 そんな人が率いる班なので……次の級別・個人表彰でも見知った班員のなかから、ちょくちょく壇上に上がる人物が出てくる。


 ちなみに、蒼百合級の第一位として表彰台に上がったのは――。


「はーははははっ――! ようやく我々の研究が日の目を浴びることになったねぇ! 皆、我が法具開発研究室では優秀な人材を広く募集しているぞ! どうぞよろしく!」


 法研を率いるあの室長、ペーレさんなのであった。

 どうやら、新型聖筒を作り出したことが高く評価されたらしく、彼女は壇上に呼ばれると嬉しそうに大手を振った。


「なんでも彼女たちは、これまで技術的に難しかった聖力保存期間の延長を実現させたと……」

「ほおぉ、これは以後の法具開発に大きな革新がもたらされそうでなによりですなぁ」


 周りでも聖王国の未来は明るいと大いに盛り上がり……手助けできた私も誇らしい気持ちでいっぱいになる。


 その他個人表彰で特に目立っていたのは、魔物の駆除に大きな実績を上げた聖女たちかな。


 剣の聖女、反射の聖女、操熊(そうゆう)の聖女など――。


 まだ私たちは見習いで討伐業務は手掛けられないけど……いつか、名前からして強そうなあの聖女たちと肩を並べて戦うこともあるのかも、なんて思いながら見ていた。


 そして表彰を受けたメンバーのうち、ペーレ室長を始めとした幾人かが今期の昇格を発表され、会場は一層色めき立つ。


「いつかあたしたちもあの中に混じりたいねっ!」

「そうだね」


 隣のポピアと、栄えある聖女達を羨望の眼差しで見上げ……私たちは最後、今期入会者の中で目覚ましく活躍した新人たちの発表を待つ。


『――まずは、アンジェリカ・ジーレット。前へ』

「ジーレット侯爵の娘か。やはり上がってきたな」

「順当なところで。名門貴族家の出ということで、一段と華がありますなぁ」

(ぐぬぬぬ~……あのすまし顔、ムカつくわぁ)

(こらこら、ポピア)


 予想通りの出だしに私も少しは思うところがあったけど……。

 他班での実績については知らないし、彼女が座学で優秀だという話はよく聞いていた。周囲から驚く声が出なかったところからも、妥当な判断なのだろう。


『――サリー・ベルステン。前へ』

『やたっ! これからも、皆の胃袋を掴んで離しませんよ!』


 そして次に呼ばれたのは……あのチーム・ポトフでリーダーを務めていたサリーという少女だった。


 毎日のように積極的に民間に奉仕する姿勢が認められたのだという。私もしばらく彼女たちと行動を共にしたので、あの笑顔を見るとなんだかお腹が空いてくる。


 その後、名も顔もよく知らない聖女がひとりふたりと呼ばれて――最後に。


『――シーリ・アンテノア。前へ』

「……えっ⁉」


 あの青髪の乙女の口から、前触れもなくスッと自分の名が出され、ドキッと心臓が跳ねた。


 ほ、本当に今呼ばれたの、私だったかな? 

 間違いないか左右を見渡すが、他に立席者もいない。

 まさかのまさかだ、私の名前が上がるなんて……。


「いやったぁ‼ さっすがシーリ! ほら、いってらっしゃい!」


 ポピアは我がことのように隣で喜ぶと、ぐいっと背中を押して送り出してくれる。その間に選考理由が厳かに語られてゆく。


「彼女は、法具開発研究室が長年突き当たっていた聖筒保持期間の問題に斬新なアイデアをもたらし、解決へと導きました。その後も貧民街にて区画整理を手掛け、そこに生きる者たちに新たな希望の芽を授けています。我々聖女会としても、王国を底から支えようとする彼女の活動に深く賛意を示し、今後支援していきたいと考えております」

(わー、こんなこと……人生初めてだよ)


 周囲の拍手と温かい視線に顔を赤くしながら、私はそそくさと壇上に上がっていく。


 当然アンジェリカは信じがたいという視線で目を剥いていたが、どうしてこんなことになったのか、私だって知らないよ……。


 ともあれ――今期入会者から選ばれた私たち五人は、華々しい活躍をした先輩たちの隣へと並ばされる。今回の進行役となる青髪の聖女が私たちを指し示し、穏やかな声で告げた。


「この五人はいずれも聖女会に入って日が浅いにもかかわらず、自らの功績で己が輝きを示した者たちです。将来、この聖王国を照らす星々のような逸材たちに……皆様、どうか惜しみなき拍手と、今後の助力をお願いいたします――」


 青髪の聖女の求めに応じ、ホール全体から拍手の雨が降り注ぐ。


 うーむ、あろうことか前世で毎日道の端っこを頭を下げてとぼとぼ歩いていた私なんかが、こんな華々しい舞台に上がることになるなんて……。


 しかも、青髪の聖女の言葉はそれで終わらず。


「この五人には特別に早期昇格――黄雛菊の位を与えることに決まりました。見事その才能を花開かせ、今後の数多の活躍が見込まれる彼女たちに……どうか皆さま温かい賞賛の言葉を。そして今後とも、聖女会の活動に変わらぬ期待と支援をお寄せくださいますよう」


 ワッ――――大歓声が降り注ぐと同時。ホールの両端からパパパパン! と連続してクラッカーが鳴り響く。


 会場の盛り上がりは最高潮に達し……私は放心したような表情で、目の前で拍手喝采を上げる人々と、舞い散る色とりどりの紙吹雪を眺めていた。


 だが、この話にはささやかな続きがあって――。



 閉会後。

 私は同じく壇上に上がったミシェル班長に呼び止められる。


「シーリ、この後少し時間はありますか? あなたと話したいという御方がいましてね」

「それって……」

「ええ、この間のことについてです」


 アンジェリカのことで誰かに話を通してくれたのだ――そう思った私は、ホールの出入り口で待つポピアに向け両手でバッテンのハンドサイン。すると彼女は「おっけー」と両腕で丸を作り、退出する人混みに紛れていった。


 ふう……察しが良くて助かるな。


「では、着いてきなさい」


 それを見届け、私をホールから連れ出すと班長は小さく咳払い。労いの言葉をくれた。


「こほん……多少危なっかしさがあるとはいえ、我が第五班から新人の表彰者が出たことは大変喜ばしい。よく頑張りましたね、シーリ」

「あ、ありがとうございます。恐縮です」


 改まって言われると、さすがに無心ではいられず頬がむずつく。

 先程壇上に上がった興奮もあいまって、今私の顔はどうなっていることやら。


「聖女の業務は多忙に尽きます。忙しさに馴染めず会から抜けたり、仕事を拒否して翠双葉のまま足を止める者も少なくはない。そんな中、あなたもポピアもよく成長している。すでに奇跡の扱いに関しては黄雛菊級を名乗る資格は十分にあるでしょう。ですが……」


 彼女はこちらを思い遣る真剣な眼差しで、真っ直ぐに語り掛けてきた。


「今後選択肢に入る討伐業務に関しては、見返りも多いが危険も多い。くれぐれも自分の実力にそぐわないと感じたら、手を引くこと。のちに魔物の出現に合わせた実地での研修があるでしょうから、その時に今の実力がそれに見合うか、じっくりと考えて判断するのですよ」

「はい。よく考えます」


 伝えるべきことは伝えたと言った感じで、先を急ぐミシェル班長と共に辿り着いたのは、大ホールの裏手控室だった。その扉前で彼女は耳を澄ます。


「この中で会う予定なのですが……なにやら言い争う声が聞こえますね。少し待ちましょう」


 班長が言う通り、中からは激しく言い募る声が。

 どうも、誰かが一方的に何かをまくしたてているような……。


 あれ、この声って――。


「納得いきません! このことはお父様に報告させていただきますから!」


 ドバン、といきなり扉が開き誰かが出て来る。

 アンジェリカ――彼女はものすごい剣幕で肩を怒らせ、絨毯を荒っぽく踏みつけ去っていった。


 気付かれなくてよかった……咄嗟に班長の背中に隠れたのが正解だったな。

 後ろ姿を目で追う私たちに、部屋の中から穏やかな声が届いた。


「まったく、困ったものね。プライドが高いのは結構……。でも、その力を己が栄誉のためばかりに用いるうちは周囲の理解は永遠に得られないでしょう。あの子こそ、お父上の口添えと比較的戦闘向きの奇跡を扱うという事実が無くば、表彰者に選ばれることはあったかどうか」

奇跡を(オーリア)――。ルイーゼ様、ご希望通りシーリ・アンテノアをお連れいたしました」


 班長は私を連れ、堂々と開け放たれた扉から入室すると、深々とお辞儀をする。

 私はそれに倣いながらごくりと喉を鳴らす。


「ありがとうミシェル。あなたはもう戻っていいわ」


 それもそのはず。そこにいらっしゃったのはなんと先程の金盞花の三乙女のひとり、あの青髪の聖女であったのだ。


 困り顔で頬に手を添えた彼女を前に、班長は私の背中を軽く叩くと姿を消してしまった。


 と……とにかくまずはご挨拶から。


「第五班の見習い聖女、シーリ・アンテノアです。お呼び立てに従い伺いました」

「そんなに畏まらなくてもよくてよ。直接話すことができて嬉しいわ。私の名は、ルイーゼ・ラフィーメ。聖女会をまとめる金盞花の一片にして、“心”の号を授かりし者。ではシーリ、もう少し近くへ。この方たちにもご挨拶を」

「は、はぁ……」


 穏やかに微笑むルイーゼ様は本当に美しい。畏まるなと言われても無理なので、生返事を返すとできるだけ粗相のないようゆっくりと近づく。


 その内に、ルイーゼ様に集中していた視野が広がり、やっと周りにふたりの人物が立っているのに気付いた。


「やあ、シーリ。今日は見事だったね。僕も後見役として鼻が高いよ」

「アルベール様! ご無沙汰してます」


 楽しそうな笑みを浮かべているのは、聖騎士団長のアルベール様。

 彼の気さくな挨拶で、私の凝り固まった気分もわずかに解れる。


 だが、もうひとりの人物には完全に意表を突かれた。


「おい、ルイーゼ。この鈍くさそうなやつが、本当にマールが見つけた、未来で重要な役目を果たすという聖女なのか?」

「……あ、君ってば確か!」


 この金髪の美少年――こないだ大聖殿で私を罵倒して消えたあの少年だ!

 そういえば、今日もアルベール様と一緒にいたみたいだけど……なぜ彼がここに?


 いや、そもそも一番場違いなのは私だけどさ。

 ちょっと運よく活躍して表彰台に上がっただけの一般人との話に、どうして彼らみたいな人たちが呼ばれたのか。


「あら、すでにお見知りおきでしたの?」

「こやつ、以前にオレに不敬な口の利き方をしたのだ。聖女でなくばどうしてくれたか」


 なんだかルイーゼ様は面白がるような表情で状況を見守っている。相変わらず私を見上げふんぞり返る少年を見兼ねたように、アルベール様が自己紹介を促した。


「彼女も困惑しているようですから。そろそろご自身の正体を明かしてさしあげては?」

「ちっ……まあいい。そこな聖女、よく聞くがいい」


 彼は失礼なことに年上で騎士団長であるアルベール様に舌打ちすると、自信満々に背中を逸らして言った。


「我が口から直々に名乗りを受けること、光栄に思え。オレはデュリス・ソラス・ランシルエルト。もう分かったであろうが、世に名高き聖王国の国王、ガルベ・ソラス・ランシルエルトが第一子――。つまり、この国の第一王子であり、次期国王となるべき者だっ!」

「…………う、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ――っ⁉」


 多分その時、私史上もっともハイトーンな声が天を突き抜けた。


 だって、だってだよ……?

 腕を目一杯伸ばせば届きそうな場所に、この聖王国で多分二、三番目くらいに偉い、とんでもない人物が立っていたら?


 私、こないだタメ口でこの人と話してたよね……。こりゃ、裁判沙汰かも……?


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