表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
極貧孤児に転生したので、親を探して文句を言おうと思う  作者: 安野 吽
前編・聖王国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/66

15・民間支援業務①

 聖王国第一の都、聖都。

 といえど……そこに住むすべての人が裕福な暮らしを送れているわけではなく。


「わ~……パパたちにこの辺りには行かないように言われてたけど、ちょっと住むのは大変そうだよね、ここ」

「大したことないよ。このくらいのぼろ具合、辺境じゃ普通だったし」


 古臭く傷んだ家屋が立ち並ぶ通りに、ポピアとそれぞれの感想を抱き合っていると。


「――あなたたち、仕事で来ているんですよ。私語は慎む」

「「すみません!」」


 ミシェル班長からのお叱りがびしっと飛び、慌てて私たちは口を抑えた――。


 本日の仕事は民間支援業務――ということで、他班の人たちと共に聖都の南部貧民街へと出張中だ。物価や地価も高いこの街では商売の難易度も高く、自ずと一定の人間が仕事を失い、こうした場所で共同生活を送るようになる。


 聖女会は公の組織だから、そういった立場の弱い民にも支援を欠かさない。

 むろん聖都に限らず定期的に王国各地に出向き、聖騎士団と共に災害復興の助力や、住民の生活支援を行う。


 私たちが姿を見せると、物陰からちらほらとひとが集まり出す。

 やはり、助けを必要としている人は多いようだ。


「さあ、治療が可能な者は診療台で医者にかかれない方たちの容態を見てあげるように。炊き出しチームは滋養にいいものを調理し、住民達を元気付けましょう」

「「はいっ!」」


 責任者としてきびきびと指示を出すミシェル班長に、元気よく従う聖女たち。

 それに倣いたいところだけど、まだ役割を持たない新人の私たちは手持無沙汰で佇む。そこでポピアが誰にも気付かれないようこっそり囁きかけてきた。


(ねえシーリ、かえって邪魔になっちゃいそうだし~。ね……ここは、先輩たちの活躍を陰から見学させてもらっちゃわなーい?)

(あのねぇ……)


 持ち前のサボリ癖を発揮せんとしたポピアに私は頭を抑えた。

 だが、そんな懲りない彼女を見逃すほど全能の女神様はお優しくない。


「ポ・ピ・アちゃ~ん?」

「ひぅ⁉」


 悪だくみをする少女の肩が後ろからがっちりと掴まれ、治療チームのリアナ先輩たちが姿を現す。


「逃がさないわよ~ん……? あなたは今日もあたしたちの下でしっかりと治療作業の経験を積むんだから~」

「包帯作り、今日もばっちり期待してるわね!」

「や、やだ……いやなの! ほ、包帯なんてもう見たくもない! シーリ、お願い! あたしが帰らなかったら、三番街の街角にあるハッピー・ルメアリー堂の新作スイーツはあなたが受け取りに行ってね! お助けぇ~!!!」

(あの子は毎日楽しそうだなぁ……)


 絶叫そののち、すっかり先輩たちのお気に入りとなったポピアが寸劇がてら引っ立てられていくと、私はハンカチを振る手を止めた。


 最近聖都中の高級スイーツを制覇する勢いでお金を使い込んでいる彼女だけど、ちゃんと計算してるのかしら。お小遣いが足りなくなっても私は貸さないぞ。


 二の舞にはなるまいぞと溜め息を吐き、薄情な私はとっとと班長に指示を仰ぎにゆくことに――。



 少し離れたところでミシェル班長を発見した私は、しばし立ち止まる。

 片手に書類を抱えつつ、トラブルがないか目を光らせつつテキパキと指示を下すその姿には、やはり憧れてしまう。しかも美人だし。

 前世では、将来あんな感じのキャリアウーマンになれたらと願っていたんだけど……。


 しばし見惚れた後、新人で役割を持たない私は小走りに彼女に駆け寄っていった。


「え~ミシェル班長。それで私は何をいたしましょう?」

「ああ、そうでしたね。研究室でよく貢献してくれたというペーレからの口利きもありますし、あなたは本日見学でもよいと思いますが……」

「……あの」


 いつの間にか後ろにいた存在感のない少女に、気付かずにいた私たちは振り返る。

 焦げ茶の髪を編み込み、肩口に垂らした奥ゆかしい感じの女の子。第五班の班員じゃないけど……。


「私、第八班の者なんですが……街の人に頼まれ事をしていて。人手を借りられませんか?」

「あなたは……確かリナ・ハストンさんでしたね? 自班の班員たちは?」

「そ、相談したんですけど……。皆さん忙しいらしくて」


 訝しむ班長にリナさんの表情は(かげ)った。困っているように見え、私は声を挙げる。


「じゃあ私、ちょっと手伝ってきます。特別な奇跡を使わなくていいなら力になれますし」

「ふむ……そうですか? あなたがそう決めたのなら好きになさい。ですが……」


 班長は私を送り出す際、小声で忠告をくれた。最近の働きと目立つ髪色もあって、あなたに注目を向ける聖女もいるから用心しなさい――と。


 彼女の言う通り気にしておくに越したことはないけれど、疑心暗鬼になりすぎても疲れるだけだ。

 私は頷くとリナさんと互いに自己紹介し合い、後に着いていく。貧民街での初仕事だ、張り切っていかなきゃ――。


 聞くところによると、どうも彼女は東区にある花屋の娘さんらしい。気弱そうに微笑む彼女をじっと見て気付いた。目元が少しだけ、最近会った誰かに似ているような――?


「あ。その花屋さん、もしかして……あの奥様が聖女だったっていう?」

「ええ、そうです。先日は父のガスがお世話になりました」


 ぴんときた通り、彼女は先日助力してくれたあの店主さんの娘だった。

 私は慌ててお礼を返す。


「ううん、助かったのは私の方だもの。それにごめん……お母さんが大事に育てた花の種、勝手に使わせてもらっちゃって」

「いいんです。私ではあんなこと、思いつきもしませんし。それに母も喜んでると思います。聖女であることをずっと誇りに思ってたって、父から聞きましたから」


 リナさんがはにかんだ表情でそう言ってくれ、胸を撫でおろす。


 にしても二代続けで聖女だなんて珍しい。尋ねてみると彼女はこう教えてくれた。どうも、何かの理由で力を満足に振るえなかった聖女は、次の世代に聖女の資質を受け継がせることがあるらしい。


 何の奇跡を扱うのかも聞いてみたけど、彼女は困ったように微笑んだだけ。母親と同じものだろうし、奇跡を見いだせていないということもなさそうだけど――。


 安易に人の事情(プライベート)に踏み込むのもよくないかと、すぐに私は話題を切り替えた。


「あれ見て。あはは、面白いね。チーム・ポトフだって」

「ふふ、おいしそうですね」


 道すがら好きな花の話などしつつ周りを眺めていると、なるほど。街のあちこちで光が瞬き、聖女が思い思いの活動で人々を支援している。


 とくに目覚ましい活躍を見せるのは、私たちと同期の聖女からなる、キャベツ、ニンジン、ウインナーの奇跡の三人組。生み出した食材で温かい煮込みスープを振舞い住民達に大人気。ご丁寧に横断幕まで用意してある。


 他にも石膏の聖女がへらで壊れた建物の壁を補修していたり、銀の聖女が生み出したスプーンやフォークを住人たちに配っていたり。なんだかんだポピアだって、医療チームの面々に混ざり奇跡と持ち前の明るさで病人たちを元気にしている。


 人助けをしている皆の表情は、いずれも輝いてとても素敵に見えた。


「すごいね。皆それぞれがすべきことを……自分の居場所を見つけられてるんだ」

「…………」

「どうかした?」

「――い、いえ、急ぎましょう」


 するとふいにまた表情を曇らせ、彼女は早足で先を急ぐ。

 何か、気に触るようなことを言ってしまったのかな……。

 年頃の女の子とのコミュニケーションって難しいね。



 それからは会話も少なく、黙々と歩く内に辿り着いたのは一軒の廃墟……というか、建物の跡地。

 今は半壊して屋根もなく、瓦礫の山だけが残る。


 そこでたむろする十数人の若者たちを前に、リナさんは言った。


「あっ、ごめんなさい。私必要なものを忘れたので、取りに行ってきます。あちらの女性に詳しい話を聞いておいてもらえますか?」

「え? うん……」


 言うが早いか、彼女はその場から唐突に走り去った。やや不審な態度に思えたけど……赤毛の女性が気さくにこちらに手をあげたため、近付いていく。


「こんにちは。あなたたちが聖女に頼みたいことがあるっていう人たち?」

「……そういうことかな。ねぇ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……元孤児だって本当なのかい? 白髪の聖女様」

「え? ええ、そうですけど」


 鼻筋のスッとした、穏やかそうな美人さんだけど……。


 彼女と話していると、背中にぴりりと悪寒が走った。

 妙だ、この人たち……私個人の素性を把握している? それって――。


「不思議だよね。同じような境遇なのに、私たちは食うにも困り、君はたまたま運よく、高そうな服を着て幸せに暮らしてる」


 笑みの色が濃くなり、踵を返そうとする。


 だが、その時すでに数人の若者たちに回り込まれており。

 はめられた……そう察した私は、目の前の女性に問うた。


「何が目的?」

「ふふふ……まずは、君を捕まえようかな。知っている? 聖女の身体はその体重分の黄金よりも価値があるんだ。裏社会に欲しいって好事家は山ほどいてね……それだけのお金があれば、ここにいる皆がもう一生働かずに暮らしていけるでしょ?」


 にたぁと酷薄な笑みを浮かべ、女性は鞘から抜き出したナイフを突きつける。


「そんなことをしたら、国が黙ってないわ。やめた方がいい」


 聖女会に属す人間の身柄は王国が保証しており、危害を加えれば相当な罪が課される。しかし、彼女は重々承知だというように鼻で笑った。


「だったら他国に逃げればいい。どうせこのままランシルエルトにいたって、私たちにはろくな仕事も回って来やしないんだ。さ、お前たち……あの方のご命令だ、その女を捕まえろ!」


 背後に匂う存在の正体を考える暇もなく。本性を見せたならず者たちが私を捕えようと襲い掛かった。咄嗟に私は奇跡を使う。


「そんな理由で捕まってたまるもんですか!」

「うがっ!」「なんだこりゃ! 紙ぃ⁉」


 とはいえ、相手を傷つけるまではしたくない。


 生み出した紙片を拡大・強化し、相手に巻きつける。無力化ならこれで十分。

 意志に従い厚さや強度も変わるこれは、並みの腕力じゃ脱出できないはず。


 最初の三人が地面に転がり、やつらは次は倍数で突撃する。しかし結果は変わらず、瞬く間に十人近くが、手巻き寿司状態で私の足元に転がった。


「これで終わり? あなたも同じ目に遭いたくなかったら、武器を下げて」

「へえ、さすが聖女……」


 あえて強気で赤毛の女性を威圧。

 聖女としての訓練のおかげで、奇跡の腕前も随分上がってきている。成長を実感する私を前に……赤毛の女性は口の端を上げナイフを握り直した。


「そんな刃物、奇跡でどうとだって防げる。今回だけは見逃してあげるから、もう私の前に姿を現さないで」

「そういうわけにもいかないね。痛い目に遭うのは嫌だけど、これも命令だ。お前たち、やるぞ!」


 自滅覚悟での突撃を予想すると、私はすぐに奇跡を放てるよう身構えた。

 だが彼女は、あろうことか刃先を自らの顔に向け――。


「――うぐっ!」

「――なっ⁉」


 なんと、自らの頬を横一文字に切り裂いた。

 血が噴き出し地面を濡らすが、そこで終わらず彼女は、腕や足……体のあちこちを突き刺していく。気付けば他のならず者も、手が動く者は次々と自傷し、あちこちから呻き声が上がった。


「ど、どうして……」


 異常行動に青ざめる私。

 それを前に、赤毛の女性は脂汗を浮かべながら大声で助けを呼んだ。


「誰か、助けてぇぇぇぇっ! 聖女様、ひどすぎます! 私たち貧しい民の存在が気に食わないからって、殺そうだなんて!」

(……そこまで、するの)

「ひぃぃっ! 一体何が起きているの!」

「おいあんたら、大丈夫か! 今聖女を呼ぶからな」


 蹲る血塗れの女性に、ところどころ血に染まる白紙で包まれた男達の姿。

 辺りは凄惨な傷害事件の現場と化し、集まった住民達に惨事を印象付ける。


(逃げなきゃ……)


 ひとまず弁解は後だ、この場を抜け出して誰かに助けを求めよう。

 その判断は――遅きに失した。


「まあひどい……これは何事かしら?」


 退路を断つように現れたのは聖女の三人組。

 見覚えのあるふたりと、そしてアンジェリカ。


 当たり前だけど、こちらを助けに来てくれたのではない。

 彼女は慈悲深さをアピールするように女性を取り巻きに手当させ、こちらに険しい眼差しを向ける。


「聖女たるものがこの聖王国の国民を傷付けるなど、許されないこと。この暴挙の代償は高くつくわよ、聖女シーリ」


 虫をも殺さぬ可憐なさまを装いながら。


 手で隠した裏でうっすらと微笑むその唇は、誰が裏で糸を引くのかということを、十分に物語っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ