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極貧孤児に転生したので、親を探して文句を言おうと思う  作者: 安野 吽
前編・聖王国編

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10・治療業務

 聖女の力の習得に励み、一週間ほどが立った日の午後。


(ちょっと慣れて来たかな、この街にも)


 私たちは聖都の街並みを目的地に向かって歩いていた。


 見習い聖女の午前中の生活はほぼ訓練。午後は班分けに従い、実際に業務をこなす先輩方から仕事を学ぶ。そこで、それぞれの適正によって別れる治療、民間支援、法具製作、討伐の四つのチームの内、どれに携わるのかだが……。


 新人はまだ奇跡が発現していない者も多く、自分の向き不向きなんてはっきり言って分からない――。


 ので、とりあえず順繰りに実地で仕事を補佐し、その中で奇跡の扱い方を学ぶ。すると早く奇跡を扱えるようになろうという意欲も増すし、聖力を生み出すコツなんかも体得しやすいんだとか。


 そこで本日私たちが向かうのは、聖都でも有数の大きな医院だ。


 私にとってはこれも聖都の地理を頭に叩き込むいい機会。聖女会本部は聖都のほぼ真ん中に位置しており、各方面にもアクセスは良好ってわけで。


「ああ~! ママ見て、聖女のお姉ちゃんたちだよ! 近くでみたい」

「こらこら、お仕事の邪魔しちゃいけません」

「おう聖女のねーちゃん、仕事前に焼きオルモ串(ホタテ貝を甘辛く焼いたみたいなやつ)、摘まんでいかねえかい? 安くしとくぜ」

「み、見るだけ……」

「ダーメ。ポピア、行くよ」


 街人と交流しながら、活気のある通りを進んでいく。

 白い制服は目立つから、結構皆道を開けてくれてちょっと申し訳ない。こんな感じで、昼食を食べたそばから新たな食欲が湧き上がるポピアを引き連れて、医院へと急ぐ。


 途中でやっとこさ屋台への未練を断ち切ったポピアがぼやいた。


「今日はなにをやらされるのかな~。あたし、小難しいことって本当苦手。身体を動かしてる方が性に合うんだよね」


 今日の講義であれだけ他班の班長にこってり絞られた後じゃ、愚痴もでるよね。

 私はそれに合わせる形で慰めの笑みを浮かべる。


「でもポピアは手先が器用じゃない。聖力の扱いにさえ慣れれば、すぐに色々できるようになるよ。治療とか、法具製作とか」


 一見大雑把に見える彼女だけど、興味があることには大きな集中力を発揮するんだ。


 こないだ、私に刺繍入りのハンカチを作ってプレゼントしてくれたんだけど、さすが服屋の娘。それが本当に見事な出来栄えだったんだよね。端に私の名前とカラフルなキャンディの刺繍が入った素敵なそれは、今では完全に私のお気に入り。


 他にもこの街を知らない私のことを、嫌がらずに面倒見てくれるし。お洒落で親切で気立てもいい。今度また個人的にお礼をしようと思ってる。


「あたしゃシーリが羨ましいったら。こないだも聖力扱いが上手だって先輩に褒められてたじゃん。どーもあたしってば白か黒、調節ってやつが下手っぴなのよね」


 そんなポピアは、あなたの髪の色みたいね、と小さく舌を出していた。


 彼女の悩みの種である聖力の出し入れは、まだ扱える力の量が少ない私たちにとって死活問題。肝心の時にガス欠にならないためにも、力加減は一刻も早く身に着けるべき技術。


 ちなみに私の場合、指の数で出す力の割合を調節することに決めた。

 指一本なら一割、両手の十指を開けば全力って感じで、繰り返し何度も身体に沁み込ませてる最中だ。でもこのやり方では感覚派のポピアにはぴんと来なかったみたい。


「大丈夫、またいつでも練習に付き合うから。それに目覚めたのが“布”の奇跡でよかったじゃない。あなたにぴったりの力だよ」


 そうそう、あれからポピアの奇跡もちゃんと発現していた。

 それも、布を生み出す力。聖女の奇跡自体が強い希望を元にして生まれるものだし、お店で日常的に布地に触れて来た彼女らしい能力だよね。


 講義で教わった知識によると、奇跡はそれぞれ――創造型、法則型、使役型、特殊型の四つの(タイプ)に分類される。


 この区分だと、私の紙もポピアの布も創造型の奇跡に当たる最もポピュラーなもので運がよかった。

 なにせ、あまりに影響力が強い力は、使用自体を国に制限されてしまうこともあるとか。多くの人を危険に晒すような制御しづらい力ではなく、自分の意志でコントロールできるものなので、ひと安心。


「紙も布もさ、私たちが生活するのに欠かせない力じゃない。極めればあちこちから引っ張りだこ……きっと人気者になれるよ、だから、一緒に早く見習いから抜け出そう」

「だよね! よーし、さっさと聖女の力をマスターして、あたしの力でチャップ服飾品店を有名にしてやる! 目指すは国一番のファッションリーダー! サングラスとか毛皮のコート着ちゃって、颯爽とあちこちに馬車で乗り付け女の子達にキャーキャー言われちゃうってのは、どう⁉」

「その意気!」


 そんな応援に、ポピアは持ち前の明るい表情を大きく輝かせた。

 やる気も戻ったところで、私も私で奇跡を使いこなせるよう、精進しないと。


(紙か~。一見汎用性が高そうだけど、弱点も多そう。濡れたり燃えたりでダメになるし。でも、最初使った時、触れてもいないのにあれだけ力の強い魔物を押し止めたんだ。使いこなせれば、手足の代わりや鎧、武器にもなりうる、かな)


 紙とは――つまるところ木の繊維を細かくしてシート状に成型し直したもの。形を変えやすく、イメージもしやすい。私の貧弱な発想じゃ、まだあんまりいい考えが思い付かないけど……世に出回る紙製品を参考にしてれば、その内いい使い道も浮かぶはず。


「よし……ポピア、走って行こ!」

「え~っ、またお腹すいちゃうじゃん!」


 物事の基本は体力だし……身体も鍛えていかないと。

 使える時間は有意義にと、私はぶ~たれるポピアを引き連れ、聖都の石畳の上を元気よく走り出した。 



 何事も、まずは土台固めから――。


 そう方針を決め、聖都の巨大医院の門を潜って受付で会から来たことを示すと、通されたのは忙しく働く先輩たちのもと。


 そこでお医者さんたちに混じって活躍しているのは、もちろん同制服を着た先輩たち。たしか、ライムカラーの跳ねっ毛の方が“アロエ”の聖女リアナさん。茶色のお団子髪の方が、“ウイスキー”の聖女ベルさん。


「あ、きたきた新人! あなたたち早速働いてもらうわよ! 近くで出た火事のせいで怪我人がたくさん出ちゃったの。ほら、このお酒で手を消毒して、軽症の患者さんたちを応急処置ね! やり方は教えるから!」

「わ、わかりました!」


 聖女の座学で怪我人の応急処置は一通り教わってる。見様見真似で私はベル先輩とそれにとりかかった。一方ポピアは……。


「あ~もう! 包帯が足らんっ! ねーポピア、あんた布の聖女だったでしょ! 包帯になるものとか出せない? この際清潔な布なら、なんでもいいっ!」

「ど、どうかな~、やってみます! え~と、包帯の生地って木綿だったよね。もめんもめん……出てこいっ!」


 リアナ先輩に指示され、彼女は手をもぞもぞ動かして木綿の質感をイメージし出した。少し時間はかかったが、聖女の光が手のひらに集まると――。


「やった、出たっ……! けどぉ、わひゃあああ! と、止まんないぃ~」


 ――びょろろろ~ん。


 さすが服屋の娘……聖力により生産されたガーゼ生地が次から次へと手のひらから溢れて、まるで噴水状態。とどまるところを知らずパニクるポピア。


「来たぁ! どんどん出して! はい、はい!」


 だがリアナ先輩は慣れた様子で機敏にダッシュ。いずこから持ち寄ったテーブルクロスをバッと広げて受け止め、生み出す端からリズムよくカット。綺麗に巻き取り、あっという間に二人体制の簡易包帯工場が完成した。


「さあこっちはこっちでどんどん治療を進めるわよ!」

「は、はいっ!」


 そこからはスムーズで、跳ねっ毛のリアナ先輩は包帯が尽きるとアロエの力で軟膏を作りだした。ベル先輩がお酒で消毒した傷口に、新人の私たちが塗り込み、包帯で保護。即席のコンビネーションは悪くなく、私たちは患者さんが捌けるまで汗だくで、初の治療業務に勤しむ。


 やがて日は落ち、最後は立っているのもしんどいくらいで、私だけ奇跡を生かせなかったけど――。


「ポピア、あんた新人にしちゃ見どころある! 治療チームはいつでも補充人員大歓迎だから、行くとこがなかったらうちに来な!」

「そ、そーですかぁ? ぜはー……ありがとうございます~。考えますぅ……」


 ふふっ、相方の活躍が見れて満足だ。よかったじゃん、ポピア。


※長くなるため省きましたが、四タイプの奇跡の詳細は以下のような感じです。


・創造型――特定の物質を聖力によって生み出し、それを自由に操ったりできる力。


・法則型――例えば、時間とか、空間とか、力の向きだとか、この世を支配する法則を操ることができる力。


・使役型――自らが生み出した物ではない物質や、意志を持つ存在を使役することができる力。


・特殊型――いずれにも当てはまらない、特別な能力を扱うことができる力。

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