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28話・選定

 まず、ディアラは別として。

 そして当人である青海も除く。

 アルテナは頭を悩ませていた。

 議題は勿論、青海のウォルテルス渡航にまつわる諸々の件だ。

 旅費はともかくとして、最も重要なのはその旅に同行する騎士の人選だ。

 あまり人数をかける訳にもいかないから、それに加え、プラスふたりといったところか。

 目的地がウォルテルスならば、まずポロンが付いたほうがいいだろうという判断だ。神聖術は、長旅でも役に立つ能力でもある。

 となると最大の問題は四人目。

 白兵戦に長けた、戦闘能力の高い騎士が適任だろう。厳しいことを言えば、青海の戦闘能力が騎士とは掛け離れた程遠いもの、ということもある。

 だが、あまりに高位の騎士は、エルドルトの守備に戦力を空ける可能性がある。なので、大隊長クラスも省かれる。

「ならば、私が帯同しましょう」

 そんな考えとは裏腹に、そう言ったのはユラナスだ。

「ユラナス大隊長がこの国を空けたら、守備にそれこそ陰りがでます」

「私の力を過大評価し過ぎですよ」

 アルテナの評価に、ユラナスは困ったように微笑む。

「もう戴冠の儀を終え、この国に招いた要人は帰国しています。大隊長や上位騎士が揃っている今は、何より堅固でしょう」

 それは決して言い過ぎではない。

 大隊長の力は一騎当千。並の騎士が束になって掛かっても、お釣りが来るほどの能力を有している。

「アルテナ、貴方はあのアオミなる少年と懇意にしていましたね」

 報告では、突如現れた巨大な街を含む、そこに住む人物との最初の接触を計ったのが、アルテナ達だった。

「はい」

 その後、この国を襲う脅威が起き、それを青海の力もあり、退けた。

 その事件の後、ユラナスは青海を呼び出し、その人柄も含めてしっかり向き合う時間を作った。その腰に携える武器は、魔力を含まないごく普通の武器だったのも含めて。

 異世界の人間と言えど、その姿は自分達と何ら変わることはなく。それどころか、争うことと無縁な世界と聞く場所から訪れた少年は、その手に不釣り合いな武器を携えて。それでもコッペリアを守るために勇気と共に振るった行動を、ユラナスは評価する。

「貴方は、どう思いますか?アオミという少年を」

 問われ、アルテナは思案するように中空に視線を這わせ、そして口を開く。

「・・・はじめ、あの異なる建造物に囲われた人間が、王の逝去に関連した悪逆だと考えていました」

 青海達に近づいたのも、それを調査するため。だが、それは誤った情報で。

彼らは何の落ち度もなく、彼らからしてみれば異世界であるここに飛ばされ、惑うだけの存在だった。そんな人間に、王の命を付け狙う必要も理由もない。

「貴方自信はどう思いますか?」

 アルテナの質問は、更にその奥。加藤青海という、人間そのもの。

「・・・不思議な、人間です」

 操術のみでしか退けられない死霊術を破り、決して自分の持つ力と、周囲の力の差異を感じられない愚かな人間ではないだろう。

 そして、シャロポロを見たという、一見して嘘にも思える言葉を吐き。そもそも聖地に足を踏み入れ、無事で要られた事実。サバイバル能力は意味をなさない禁断の地で、何も咎を追うこと無く生還した。

 強さ、という点に置いては、自分が所属する騎士の足元にも及ばない戦闘能力で。それなのに、強くたくましい存在感を感じる。それは、異常とも言える過酷な環境に適応しようとする、少年の身体の現れかもしれないが。

 それとは別として、アルテナが今まで感じたことのない感情を、青海は生んでくれる。

 その異世界の少年の存在に頭を悩ませている部下の姿を見て、ユラナスは表情を崩した。

 昔から、戦うことしか知らなかった少女だ。その生い立ちを含め、人との繋がりがある場所は、騎士団しかなかった。青海という少年の存在は、あらゆる意味に置いて、この国にいい風をもたらしてくれているような気がした。それは無論、ユラナスにとっても。

「私が今まで接したことのない人間で、何か、見たことのないような人を惹きつける力が宿っているようにも思えます」

 コッペリアが懐いているのがその証明に思える。人懐こいシルヴィはともかく、気難しいランドもその厳つい顔に笑みすら浮かべて青海達を迎えた。あのクロノも、トゲトゲしさこそ健在だが、青海が剣を振るうことに何も文句は言わなくなった。・・・諦めているだけかも知れないが。

 もしかしたら、エルドルトの聖獣ですら、その少年を認め、彼の前に姿を現したのか。・・・まさかな。

 だから、アルテナはごく自然に、青海に協力したいと思った。元の世界に帰る方法があるのなら、協力は惜しみない。

「それと、もうひとつ案があります」

 アルテナがそう語るのは、今回のウォルテルスに渡ることとは別のアイデアだ。

「今回の旅の成果が芳しくなかった場合、このエルドルトと、商店街を繋ぐ新たな街道の整備を提言したいのです」

 このままでは、魔物の闊歩する道なき道を永遠に往復する羽目になる。正式に道を繋ぎ、エルドルトとの往来を容易にするのも、彼らのためなのではないだろうか、と。

 その考えに、ユラナスは「くす」と小さく笑みを零し。

「それではまるで、アオミ達が元の世界に帰ることが出来なくても、この世界で暮らすことを望んでいるようにも見えますね」

 ユラナスの言葉に、アルテナはその表情に明らかな狼狽を宿し、手と首を振った。

「違います!万が一、もしもの場合に備えての提言です!」

 徐々に顔には赤みが増し、言葉を紡ぐ口元が震える。

「元の世界に帰れたほうが当然いいですし、その方法を今後、改めて腰を据えて探すのならば、彼らの生活圏内の充実は、モチベーションの維持に必要なことでしょうし・・・!」

 必死になって否定する部下のその様子が、この上なく愛しく思えるユラナスであった。


「・・・お前、正気かよ」

 苦々しく、クロノは頭を抱える。

 本人の意見も汲み取っておこうと、アルテナは青海にウォルテルスまでの同行者の希望を募った。

 青海が指定したのはクロノだった。

「ディアラさんとポロンが帯同するとなると、3人目も女子だと気を使いそうだし。気心知れた相手がいいなと思っただけで」

 そうなるとヴァルでもいいのだが、頼りになる度合いは言うまでもないが、あまり話したこともないのが気になる。・・・クロノを帯同させれば、その間も剣の修行を付けてもらえるのではないかという打算もある。ヴァルの使用武器は槍だし。

「どうだ、クロノ」

 アルテナに言われ、クロノは渋面で頭を掻く。

「・・・断っても、他にアテがあるわけじゃねえんだろ」

 アルテナの部隊はともかく、手を貸してくれる程の顔見知りとなると自ずと限られる。

「・・・行ってやるよ、不本意だがな。それが早くこいつらが帰る手段なら、請け負ってやる」

 その宣言に、アルテナは一瞬以外そうに頬を緩め。

「決まったな。ディアラ殿の帰国までに話を詰めよう」

 青海は元の世界に戻れる情報を得られるかも知れないという希望の他に、不謹慎ながら、エルドルトがあるこの大陸を出るという事実に、心を震わせていた。


「そういうわけだ」

 青海家。

 1階のリビングに実野梨と光鍔を呼び出し、ことの全景を話した。

「悪いな、しばらく商店街を空ける」

 それに対して、実野梨は唇を尖らせ、眉を潜め。光鍔はあまり表情を変えずに。

 商店街の警護は変わらずアルテナが請け負う。その点に心配はなく、青海が抜けたところでこの街の生活自体に変わりはないだろう。

「余裕があったらお土産も買うよ」

「そういうことじゃなくて」

 不満の種はそんなことではないらしい。実野梨は、みんなを置いて青海が外界に出ることを羨んでるわけでもなく。

「心配だからに決まってるでしょ」

 その気持ちを代弁するように、光鍔は言う。手練れの騎士が帯同するとは言え、青海は戦いに置いては素人。エルドルト以外の国の情勢も知らない身分なのだ。心配しないほうがおかしい。

 そのウォルテルスという国が、元の世界に戻るヒントを有するかも知れない、と言うのはわかる。青海も生き急いでいる訳では無いのもわかる。ただ、確実に、この商店街のために奔走する覚悟を持っている決意だけはひしひしと感じられて。その助けになれない自分が、情けなくて。

「大丈夫だ。クロノもポロンも手を貸してくれる」

 何より、頼りになる人間が帯同するのだ。そう自信に語る青海のそれが、安心する材料にはならなかった。

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