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第34話

 それから俺たちは、ゆったりとした足取りでユイノ荘へと戻った。もうだいぶ遅い時間だったので、俺達を迎えたのはユーリ一人きりだった。彼は律儀なことにアパートの前に立ち、俺ら二人の帰還を待っていたらしい。


「いやぁ、まさか本当に連れ帰ってこられるとは」


 驚きと喜びが入り混じった表情で、彼は俺にハグをしてくる。酒臭い。もしかしなくても俺らの帰りを飲みながら待っていたに違いない。


「ユーリか。貴様にも心配をかけたな」


「いえいえ。私は何も……エニシ殿、例の件は彼女に?」


 アイネに笑顔で返事をしたのち、俺へ尋ねてくる。


「魔人族の件か? ああ、全部アイネには伝えたよ」


「さようですか」


 俺の返事にユーリがじっと、こちらを見据えてくる。な、なんだなんだ? 男とはいえ、美人に見つめられるのは慣れてないぞ。


「やはりあなたは、強き人なのですね」


「おい、おだてるのはよしてくれよ」


「いえ、あなたはたとえ自分に不利益が降りかかるとしても、自分が正しいと思ったことを行える。真の意味での強者なのでしょう」


 真面目な口調で、彼は言う。


「皇都の騎士団でもあなたのような崇高な精神を持った人はいなかったです。最強の精神と武力を持った存在──まさに、最強の大家と呼ぶに相応しいかと」


「最強の大家って……そんな大したものじゃないけどな」


 なんか普通に恥ずかしいし。とか思ってるとアパートからサーニャとハオが飛び出してきた。


「おかえりエニシ君~!」


「二人とも、寝てたんじゃないのか!?」


「無理。寝れるわけない、こんな時に」


 ひしっ、とアイネに抱き着く二人を見て俺の涙腺がちょっとだけ緩むのを感じた。ダメだ、年をとるとこういう光景に弱くなる。


「こら、抱き着くでない! 暑苦しいぞ!」


 口ではそういうものの、満更でもない様子のアイネ。彼女なりにサーニャたちの事を大切に思ってるんだろうな。


「エニシ、貴様も笑ってないでこの二人を引きはがすのじゃ──わぷっ」


 じゃれ合っているアイネの顔面に、どこからか飛んできた白い紙が貼りつく。あれはきっと、


「何か書いてあるぞ……【深夜にガヤガヤとうるさいぞ。このメンヘラ年増女め】じゃと? 我を愚弄するかー!」


 十中八九きぃちゃんからの手紙だった。全く、姿は見せないと思ったが、あいつもしっかりとアイネの帰りを待ってるじゃないか。


「きぃちゃんの言うとおりだ。今夜は遅いし、積もる話はまた明日にしよう」


 俺の提案に皆はうなずき、自分たちの部屋へと帰っていった。


 皆を見送り、俺も自室で寝ようと一〇一号室の扉を開けようとしたとき、隣の一〇二号室の扉を開けようとしていたアイネと目が合った。


 なんとなくこそばゆい気持ちになって、こちらが噴き出すとアイネも釣られて笑いだす。ひとしきり笑い合った後で俺は彼女に挨拶をした。


「おやすみアイネ、また明日な」


「ああ。おやすみエニシ、また明日」


 こうして俺たちは部屋に戻り眠った。そしてまた日が昇り、これまでと同じ、幸せな日々が巡っていくのだ。


 そんな生活がこれからもずっと続くに違いないと俺も、きっとアイネも何の疑いもなく考えていたに違いない。


 さて、このユイノ荘史上、初の大事件についてだが後日談を少し話そうと思う。



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