第27話
「冊子で見てはいたが、こうしてみるとやっぱりデカいな」
『慈愛の手』の本部とされる建物はミナノの町の外れに存在していた。普段、あまりやってこない地域なので道に少し迷ったが、のどかな住宅街の中でその大きな門扉を携えた建物は異彩を放っていた。
冊子の情報によれば『慈愛の手』を構成するのは約三百名の職員で、その半数以上が本拠地であるこの建物に在籍しているのだという。三百人の構成員というのは、この町に来てからは聞いたことがないほど大所帯だ。
話を聞く限り、ハイロウ帝国で初めて『募金活動』を行ったのが『慈愛の手』らしいとのことで、知名度はかなりのものだという。
「代表の名前はクェン・コウ。年齢は三十歳。幼いころから恵まれない人々を助ける事を志し、10年ほど前に活動を始めたとされてるな」
「ウソ。裏で悪いことしてるに決まってる」
冊子を読み上げた俺の隣でハオが呟く。まだそうと決まってないから、滅多なことを言うんじゃありません。
「くれぐれも失礼なことを言わないようにな」
「クェン・コウの悪事、私が暴く」
こちらの不安をよそに、そう気合を入れるハオだった。
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「本日はご来館いただき、誠に感謝いたします。それで、僕に話しておきたい事とは? えぇと、ミドウさんとハオさん」
意外なことに俺達二人の対応をしたのは、クェン・コウ本人であった。この団体について代表に伝えておきたいことがあると受付で話すと、今いる豪華な応接間へと通された。
建物の外観はやはり見掛け倒しではなく、通された部屋もまた豪華なものだった。ここと似たような部屋は他にもたくさんあるうえで、どう少なく見積もっても二十人くらいでの会議が出来る広さがある。
『鑑定スキル』で見てみると、部屋に置いてある絵画やら机やらの調度品もどれも高級品だ。うむ、ハオじゃないけど、なんだかうさんくさい感じがしてきたぞ、クェンよ。
「はじめましてクェンさん。実はですね──」
俺はみんなとの事前の相談通り、魔道具で出力したアイネの写真を差し出し。
「この人物をご存知ですか? アイネって名前で毎月こちらの団体に寄付をしている俺の友人なんですけど」
「ええ。もちろん存じ上げておりますよ。何か月か前に当館へいらっしゃった際は、僕が対応したのでよく覚えてます」
クェンは微笑を浮かべ頷く。やっぱり写真で見た通り誠実そうな好青年というようなビジュアルだ。
「そうですか。今回、お話したかったのが……」
「止めさせて、アイネの募金。あの人、倒れたから」
俺の言葉を遮り、敵意マンマンなハオが告げる。言葉足らずな彼女の説明を俺が補足すると、クェンは困惑しつつ応える。
「それはなんと……痛ましい事ですね。我々としては常に無理のない程度での寄付をお願いしているので、そんな事になるとは」
「じゃあ誓って。二度とアイネからお金を貰わないって」
「残念ですがそれは出来ません」
「なんで?」
眉を顰めるハオに対し、淡々とクェンは言う。
「理由は二つあります。一つ目はアイネさんが寄付をするという行為を僕達に止める権利がないからです。彼女の自由意志を『慈愛の手』は尊重します。二つ目、こっちの方が深刻ですね。彼女が支えている魔人族は今この瞬間も絶滅の危機に瀕しているからです。我々の活動はもちろん、不遇な立場の人々を救っているのは、間違いなく彼女のように寄付をして下さる方のお陰だからです」
支えている、という表現は言外にアイネの責任が多いことを示している。人を追い込む、いやらしい手法だ。
ですから、とクェンは続ける。
「ご期待に沿えず申し訳ありませんが、こちらからアイネさんに対し何らかのアクションをすることはありません。もちろん、寄付金の減額についての相談はいつでも乗らせていただきますよ」
「たしかにもっともな事を言うなクェンさん。普通なら納得する理由だよ」
俺は思わず黙っていられなくなり、思わず口にしてしまう。実はハオと話している間にクェンへ『鑑定スキル』を使わせてもらっていた。
「にしては、あなたの身に着けてるものは随分豪華なものじゃないか。質素なデザインだが俺の目はごまかせないぜ。300万イェーンの指輪に、服だって1500万の……」
「こ、これは貰いものです! それに団体の長として見すぼらしい格好をする訳にはいかないでしょう!?」
あからさまに狼狽するクェン。お高い調度品に囲まれてるせいで金銭感覚がマヒでもしてたのだろうが、俺のスキルからは逃げられない。
「えらい商人が着てるとかなら納得はいくが、人から募金してもらってるのに、なあ?」
こんなものは口から出まかせだ。真にやましいことなどなければ、どうとでも言い訳できる難癖だ。しかし、
「……用事を思い出したので、今日はこの辺で失礼します!」
クェンがとった行動は、慌てて応接間を立ち去るということだった。後に残されたのは俺達二人のみ。
にやり、と俺とクェンのやり取りを見ていたハオは、邪悪な笑顔を浮かべ。
「やっぱり、怪しい」
と、呟くのであった。うん、俺も同意だ。




