第26話
「あ! 見てエニシ君!」
俺がきぃちゃんとやり取りしている裏で、月報を黙々と読んでいたサーニャが何かに気が付いたらしく声を上げる。
「ここ! 『皆さんの寄付によって助かる命』ってところ、読んでみて!」
彼女の指さす部分を読み、なんとなく状況を理解出来た。
「やっぱりそういうことか」
そこには多くの種族の名が書かれており、ほとんどが俺の知らないものばかりだったが、その中に『魔人族』と記載されているのが見えた。
「あいつは散り散りになった仲間のための募金をしてたんだな」
「それが正しかったとして、どうする? エニシ君」
考える。多分、アイネの態度を見るに、こちらから募金をやめるよう説得を試みても、頑固な彼女のことだ、聞く耳を持たないだろう。
「募金をするってこと自体は悪くないが、この『慈愛の手』が真っ当な組織であるかどうかは別の問題だな」
「どうにかして調べられないものなのかなぁ?」
「調べるたって、この冊子以上の情報をもってるやつなんているのか?」
俺の悩みに答えるように、きぃちゃんの紙片が部屋に滑り込んできた。
【月報には市民からの寄附金と、支出についての記載がある。たとえば発表している金額と支出が異なるような不正の証拠を見つける事が出来れば、アイネが募金をやめるきっかけになるやもしれん】
「それもそうだが、どうやってその不正の証拠を手に入れるんだ?」
だったら、とハオが間に入り、
「聞きに行けば良い直接、この人達に。悪い事してないかって」
言いながら冊子を指し示した。
「悪い事してるって正直に言わなかったら、私達で調査すれば良い」
「そりゃあ悪人が『はい、実は悪事をしてまーす』なんて言わないだろうし、結局ボクらが調査をするハメになると思うけどさ……調査って言われてもねえ。ボクらはただの素人だし──」
調査、悪くない考えですねぇ、とハオに同調したのは黙って冊子を読んでいたユーリだ。
「私の酒場の用心棒と元騎士という経歴上、この町の内外にツテが多いんです。権力を振りかざすようで気が引けますが、不正の証拠を見つけ出せるかも知れません」
流石は元騎士。様々な手広い情報網を有しているのだろう。だが、
「じゃあわざわざ俺らが動かなくても、お前の情報をもとに自警団に任せれば良いって感じか?」
「いいえ」
俺の期待はユーリにあっさりと否定された。
「私の調査が必ずしも身を結ぶとも分かりませんから、エニシ殿には別途募金グループの何らかの罪を探し当てて欲しいのです。本音を言えば首謀者の自白や、それに準じる不正の証拠を押さえられるのがベストですね」
たしかに。いくら正しそうな情報であったとしても相手に『そんな事実はない』と言われたら反論が出来ないと。
「なので、私とは別口でエニシ殿の方でも自警団の方が動くきっかけをつかんで欲しいのです。最悪、私が持ち帰った情報を話す形でも良いのですが、使える情報が得られるかは分かりませんので」
「分かった。──善は急げだ、俺は今から動くとするか。ひとまず、あの募金グループの本部とやらに行ってみる」
「承知しました。私もこの後すぐに調査をしてみます。滞りなく事が済めば今日中には調べがつくかと思います」
「意外と早いな。よし、じゃあサーニャとハオはアイネの様子を見てやってくれ募金グループが相手とはいえ、どんな正体かも分からない相手だ、危険な目にあう可能性も──」
「やだ。私もエニシと行く」
当たり前のようにハオがこちらの提案を拒否。いや、気持ちは嬉しいけど。
「私、エニシほどじゃないけど強い。待ってるだけ、イヤ」
「しかしなぁ」
俺がハオの提案に困っていると助け舟を出したのはサーニャだった。と言っても、彼女が助けたのは俺ではなくハオの方だったが。
「良いんじゃない? アイネちゃんの看病はボク一人でもできるから連れて行ってあげなよ。変に置いていったら、無理やりにでもついて行っちゃいそうだしさ」
それも一理ある。
「──仕方ない。でも、無茶はするなよ」
「もちろん」
返事と共にこちらの腕に飛びついてくる。表情がいつもと変わらないので分かりにくいが、そんなに嬉しかったのか、ハオよ。
「じゃあ一時間後に出発だ。あんまり遅くだと窓口がしまるからな」
こうして俺はハオと共に『慈愛の手』の本部となっている屋敷へと向かうことにしたのだった。




