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第24話

「金がなくって家賃が払えない、だって?」


「……すまぬ」


「いやすまぬじゃなくってだな」


 俺が例のごとく住民のみんなから家賃を回収しようとしたところ、アイネの口からそんな予想外な言葉が返ってきた。


 数か月前と違い、流石の彼女も申し訳なさを感じているらしく、自室の玄関先でありながらもこちらと視線を合わそうとしない。


「どうしたんだよ? 初めてバイトの給料で家賃を払った時、あんなに喜んでたじゃねえか。これで一族の恥さらしにならなくて済むってさ」


「すまぬ」


「いやだからすまぬじゃなくってさ」


 ずっとこの会話の繰り返しである。こちらが理由を聞いても。


「こ、今月は仕事をサボってしまってな。その分の給料が天引きされてしまったんじゃ」


 と、にべもない返事をされるだけ。仕事に身が入らないほどに体調が悪いのかと心配をしても、そこまでではないと一言のみ。このままでは時間の無駄だと思ったので俺は最後、アイネに聞いた。


「家賃の件はそこまで気にする必要はない。だけど、困っていることがあったらすぐに相談してくれよ。金がないなら──」


「来月にはまとめて支払う。心配せずとも良い」


 そう返事が来た後にばたん、と扉が締められた。そして残されるのは俺一人。昼下がりの暖かな日差しだけが俺を優しく包み込んでくれている。


 うーん、すこし状況を整理するか。


「先月までは家賃も払った上にちょっとずつ貯金も出来てるって話だったのにな。……玄関から見た感じだと、部屋が特別荒れている感じもないし、身体にアザが出来てるって訳でもないから、誰かに脅されてるって感じでもなさそうだな。──サーニャ、いるか?」


「なんでいるって分かったんだい!?」


「お前はなんとなく俺の周りをふよふよ浮いてるイメージがあるからさ」


「その通りかもしれないけど、面と向かって言われるとなんだか釈然としないね!」


 閑話休題。最近、ここ一か月の間にアイネの身の回りで変わったことが起こってないかをサーニャに尋ねてみると、


「そう言えば最近、ボクの部屋でやってるユイノ荘定期懇談会にも顔を出さなくなったね」


「懇談会? そんなイベントがあったのか?」


 本筋とは関係ないが気になる情報が出てきた。っていうか、俺そんな集まり聞かされてないんですけど!


「エニシ君はほら、住民じゃないから。……あ、あときぃちゃんも毎回欠席だよ!」


「比較対象がきぃちゃんか。っていうかその集まりにユーリもいるのか!? あの人、見た目は若いけど中身は五十代男性だぞ、気まずくならないのか!?」


 とか自分で言ってて思ったが、アイネも数百歳だとかって年齢な上、種族も違うし、魂の性別などあんまり気にならないのかもしれない。


「まあそんなことは置いておいて、その懇談会を欠席した理由とかって聞いてるか?」


「お金がないってだけかなぁ」


 つまり俺に話していた理由と矛盾は生じないってことだ。追加の手掛かりとかがあれば良いんだけどな。


「何か事情があるにしても、アイネちゃんが話してくれるのを待った方が良いんじゃないかな。それに来月になったらまた全部元通りになってるかも知れないし」


「それも……そうかもな」


 サーニャの言葉に俺も自分の不安を打ち消すようにして微笑んだ。そうだ、きっと来月からはいつもの日常が戻ってくるに違いない、そう思っていたのだが。


 一か月後。


「すまぬ。今月は酒代に金を使ってしまってのう……あと一か月で構わぬ。一か月だけ待ってくれぬか?」


 更に一か月後。


「給料を全額落としてしまってな……はは、困ったものよのう」


 ……これで三か月連続で家賃が支払われなかったことになる。アイネが家賃滞納をすること自体は特に問題ではないが、彼女が妙によそよそしい態度のが気になる。しかし、俺が理由を聞こうとすると、


「これは我自身の問題じゃ。貴様に話す義務はないわ。ほれ、この金は返すぞ。まったく、我の知らぬうちに郵便受けに金を入れるとは大胆な真似をする男よ」


 アイネに気付かれぬようこっそりとやったつもりだが、どうやらバレていたらしい。


「第一、家賃を催促する側の人間が逆に金を払ってどうするのじゃ? 貴様はなんだ、我の下僕か?」


「下僕じゃない大家だ。だって、顔色が日に日に悪くなっているお前をみてたら何もしないわけにはいかないだろ」


 俺の応答にアイネはため息をつき、全く、このアパートはお人好しが多すぎるわ。とひとりごちる。


「ここ最近は、二日と経たず他の住民共が我を訪ねてくる。皆一様に手土産と称し、野菜だの酒だのを置いてゆく。迷惑だと何度も伝え──」


 と、言い終わる前に彼女は体のバランスを崩し、廊下へと倒れこんでしまった。


「アイネ!? おい、大丈夫か!?」


「心配ない。ちょっとした……立ち眩みだ」


「さっきより顔が真っ青じゃねえか! 病院へ行くぞ!」


「構うな。病院など行っても無駄じゃ……」


「馬鹿言うな!」


「どうしたんだいエニシ君!」


 切羽詰まった俺の声を聞きつけたのか、いつの間にか周りにはユイノ荘の住民達が集まっていた。みな心配そうに倒れ伏したアイネの様子を伺っている。


「アイネがいきなり倒れたんだ。病院に連れていきたいんだが、病院に行くのは無駄だって……」


 サーニャの性格上、アイネの言葉など一蹴してくれるものと思っていたが、彼女の返事は俺にとって想像の斜め上だった。


「確かに、魔人族のアイネちゃんは病院に行く必要はないか。うん、とりあえずボクの部屋においでよ」


「……どういう意味だ?」


 一応、発言の意図を聞いてみる。


「魔人族っていうのはね、人間よりも身体がずーっと頑丈なんだよ。簡単なケガだったらお医者さんに見せる前の段階で完治しちゃうくらいにね。仮に魔人族の回復力ですら完治しない傷を負ったりしたら、それは人間の手にも負えないレベルってことなのさ」


「つまり?」


「飯食って寝てれば治るってこと」


「すごいな」


 俺は驚きとも感動ともつかない気持ちで床に寝っ転がっているアイネを見た。


「腹が、減ったのじゃ」


「でも、もしものことがあるし。一応、医者には見せておきたい。診察費は俺が出すからさ」


「心配性だねえ。じゃあさ、アイネちゃん。帰ってきたらボクが腕によりをかけてキミのご飯を作ってあげるね。あーでもうちに人間サイズの料理器具がないんだよなあ、誰か貸してくれるかい?」


「じゃあ、俺の部屋のもん使って良いぞ。ユーリ、悪いが俺が病院行ってる間にアイネの部屋を掃除しといてくれないか?」


「了解でありますエニシ殿~」


 こちらの問いかけにユーリがを元気よく応える。赤ら顔を見る限り、さっきまで飲んでたなこの人。


「私もなにかしたい」


「そうか。だったらハオにもアイネの部屋の掃除をしてもらおうかな。ユーリ一人だと大変なこともあると思う」


「分かった」


 と、全体の方針が決まったことでおのおのが自分のなすべきことの為に動き始めた。


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