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第22話

「寝るまでの記憶がねえ」


 この吐き気と頭痛の感じからするに、昨晩は飲み過ぎてしまったようだ。どれもこれもユーリが悪い、酒乱な上、妙な父性を感じたらしいあの男がどんどん俺に酒を進めてきやがったのだ。


『ささ、エニシ殿。お若いんですからこの程度でへばっちゃいけませんよ~』


『勘弁してくれ……もう飲めない』


『しょうがないですね~。じゃあ次は水割りにしましょうか!』


 相手に悪意がなかったので、ついつい付き合ってしまったが、あんな目にあうくらいならもっときっぱりと断るべきだったな。


「くそー。俺のいた世界だったらアルハラだなんだと訴えてやるところだったが、まあ悪い人じゃないしな」


 窓から見える様子を見る感じ、時刻は正午と言ったところだ。休むにしても動くにしても、一度起きて状況を把握しないと。とりあえず自分の部屋だってこともなんとなく理解。

 

 と、起き上がるため、何の気なしに床に手を伸ばしたところ。


「もみゅ?」


 なんだか柔らかい感覚。水風船のような不思議な触り心地のものがあるようだった。


「げ、ゲロとかは勘弁!?」


 慌てて自分が掴んだ『モノ』に視線を向ける。そこにあったのはなんてことない、乳房だった。


「なんだ安心し……いやできねえ!?」


 瞬時に意識が覚醒する。俺の隣で眠っていたのは他でもない半裸のユーリだった。


「この野郎! いや女郎《 めろう》! 俺の部屋で飲んでそのまま寝やがったんだな!」


 そう叫んだ瞬間、部屋の扉があいた。ってかカギもかけずに寝たのかよ俺!


「エニシよ、体調はどうじゃ? 昨晩はユーリにしこたま酒を飲まされてたようだったので心配で……べ、別に貴様の事など心配ではないが、昨日の感謝をまだ──」


 ぶつぶつと呟きながら入ってきたアイネの声が止まる。それどころか、世界全体が制止したかのような沈黙の中で、俺の手に収まっていた乳房がうごめき。


「ふわぁ良く寝ました。あれ? エニシ殿、なぜこんな私の部屋に? そもそも何故私はハダカなんです?」


 ユーリが裸に近い格好の起き上がってきたの見てからのアイネの動きは素早かった。魔人族の姫たる威信にかけて繰り出したのは悲鳴でもビンタでもその辺のものを投げつけるでもない、ノーモーションかつ助走ゼロ、のっけから最高速度の膝蹴りが俺の顔面に炸裂した。


「このケダモノめがー!」


「誤解だー!」


 俺の身体はノーダメージだったが、部屋に置いてあった俺の私物が多大なるダメージを負った事をここに記しておく。


「だからユーリも言ってただろ。昨日は夜まで飲み明かす内に身体が熱くなったんだよ。そんで寝てるうちに服を脱いでたらしくてさ」


「言い訳など聞きとうないわっ」


 数分後、なぜか俺は自分の部屋を追い出されていた。扉をノックしつつ、一〇一号室に引きこもったアイネに声掛けをするも、機嫌が戻る様子は全くない。


「くぅ、大家の俺がなんでこんな目に……」


「そうそう、なんでこんなことになってるんだい」


「朝から近所迷惑……」


 騒ぎを聞きつけたサーニャとハオにユーリが事情を説明する。


「ミドウ殿の浮気がバレて修羅場となってます~」


「嘘を教えるな!」


 そもそも事の発端と言っても過言ではない癖に、にやにやと楽しそうにしているのが気にくわない。もうちょっと反省とか協力する姿勢を見せて欲しいものだ。


「うへへだってこれ、痴話げんかじゃないですか。五十のジジイからしてみれば微笑ましいだけですって~」


「誰がカップルだ。昨日一日出かけてすこし仲良くはなったとは思うがな」


「違うんですねー。ま、確かに距離感が唐突に縮まりすぎではとは思ってましたが」


 こちらを冷やかしながらユーリは酒瓶を口に運んでいる。うえ、昨日あんだけ飲んでまだ飲むのかよこの人。


 その通り、とハオが口をはさんでくる。


「だって私だもん。エニシと結婚するの」


「ほう、エニシ殿は朝っぱらからモテモテでいらっしゃるな~」


「冗談はよしてくれよ。ったく朝っぱらめんどくさいな……」


「めんどくさいじゃとぉ!?」


 俺の無意識のボヤきに反応したのは、部屋の中にいたアイネだった。バーン! と部屋の扉を破壊し飛び出してきた彼女は俺の胸ぐらを掴み。


「昨日、あんなことまでしておいてその言い草はなにか!? あの行いはしょせん、気の迷いでしかなかったと貴様は言うのか!?」


「誤解を招く言い方を──!」


 するな、と最後まで言えなかったのは、アイネが大粒の涙を瞳から流してきたからだ。彼女も自分自身の感情の高ぶりにようやく気付いたらしく、


「べ、別に泣いてなんぞおらぬわ!」


 顔を赤らめ、どこかへと走り去ってしまった。後に遺されたのは地獄の空気と刺すような視線。


「エニシ君、今のは流石にないかなあ」


「あーあ。泣かせてしまいましたなぁエニシ殿」


「エニシ。鬼畜」


「俺にどうしろって言うんだ……」


「「「追う(んだよ!)(んですよ)(しかない)」」」


 三人に言われ、俺はアイネの後を追う事にした。


 むぅ、スキル『気配探知』を使ってみてもこの町には人が多すぎてどれがアイネなのか分からないな……おっ、ひときわ大きな魔力が町の外に向かって爆速で走っていってるぞ、こいつか!?


 どこへ向かってるのかがさっぱりだが、あいつに気付かれないように後をつけてみよう。……一応、お土産も買ってな。


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