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第20話

「魔人族の娘と人間の男が強盗をしたって噂を聞いて飛んで来たんじゃが、まさかこんな残念なことになっていたとはな。トオンちゃん、こりゃ一体どういうことだい?」


 悲しそうな顔を浮かべた店主を見て、トオンは頭痛をこらえる様に頭を押さえた。そして一言、


「……ヤゴウ、そこに座れ」


 身もすくむような声音でそう命じた。


「は、はい! トオン団長!」


「言っておきたいことはあるか?」


「えっと、申し訳ありません。自分はその……ほら! 魔人族が町中で怪しい動きをしてたら誰だって勘違いしてしまうでしょう? ねえ、皆さんもそう思いますね!」


 ヤゴウは助けを求める様に周囲に視線を向けた。だが、彼の声に同意を示すものは誰一人としていなかった。


「だからほら、そういうミスって事でおぐぉ──!?」


「おぬし、何を勘違いしている?」


 刹那の早わざだった。トオンは器用に喋る舌の動きを予期し、手にしていた刀の切先をヤゴウの口内に突っ込んだのだった。


「あが、あがががが!」


「いまおぬしが口にして良い言葉は弁明ではない、遺言だ」


 淡々と告げるトオンの態度には一切の容赦がない。たとえヤゴウが無理に言葉を発し、舌を切ったとしても彼女は、同情も責任も感じることがないであろう。


「罪なき者に罪をかぶせ、断罪するなどこの世で最も恥ずべき行為だ。畜生以下の行いだ、疾くと死ぬべし」


 ヤゴウの口内から刀を引き抜いたトオンは、そのまま頭上に振りかぶった。


「──斬る!」


 俺が即座に制止の声を出せなかったのは、あまりの展開の速さに呆気にとられたのか、それとも自分の脳内に邪なものが入り込んだせいか。


「やめよ」


 ともかく、トオンの刃を止めたのは他の誰でもないアイネ・ヘッドバットだった。レベル999の俺は彼女と較べ、ありとあらゆるものの能力が高いはずだ。しかし今回、人を許そうとするスピードについてはアイネの方が勝っていた。


「まさか許すというのか? この男はおぬしを貶めようとしたのだぞ?」


「心から許せるわけではない。じゃが、なにも死ななきゃならんほど憎んではおらん」


「なんと……」


 脱力し、刀を鞘に納めるトオン。その姿をみたヤゴウは這うようにしてアイネの元へ行き、地面に額をこすりつけて謝罪をした。


「も、申し訳なかったです! 自分の先ほどまでの無礼な発言をお許しください~! ネックレス、お返しします! もちろん、彼氏さんについても余計な疑いをしてしまって、反省するしかありません~!」


「ええい鬱陶しい! 離れるのじゃ! あとエニシは彼氏などではないから誤解するでない!」


 まとわりついてくるヤゴウをうざったそうに足で追い払うアイネ。


「拙者からも謝罪をさせてくれ。失礼だが、おぬしらの名を聞かせて欲しい」


「あ、俺ですか? 俺は御堂エニシって言います。向こうはアイネ・ヘッドバット」


「ミドウ氏か。この度は誠に申し訳ないことをした」


 トオンは一度うなずいたあと、地面に跪き、土下座のような姿勢をとった。


「アイネ氏も、この度はなんとお詫びしたものか」


 痛恨の表情を浮かべ、地面に額をこすりつけるトオンを俺は制止する。


「やめてください。俺はあなたに頭を下げられるような男じゃない」


「我も貴様にはさほど恨みはないぞ。むしろこっちの男の教育をどうにかするのじゃなっ!」


「返す言葉もない。全ては拙者の管理不足が起こしたものだ。──ここに集まった民にも無用な騒ぎを起こしてしまった事を、深くお詫び申し上げたい」


 そして律義にもトオンは野次馬として集まった人々に向けても、頭を下げた。なんというか一方的に強盗の嫌疑をかけられた俺が言うのもおかしな話だが。彼女のその謝罪を見て、すごく真っ直ぐな心を持ってるなと思ってしまった。


「やけにクソ真面目じゃな貴様も。まあ、なんだ……勘違いというのは誰でもしうるものよ。我も寛大な心で許してやろうと思っておるぞ」


「いいやアイネ氏、この度拙者がしでかしたのは勘違いなどではない」


「ほう? 『勘違い』でないとすれば、貴様は一体どのような理由で謝っておるのじゃ?」


「差別だ。拙者はおぬしらを心の中で差別したのだよ。勘違い、などと生易しい言葉では済まされぬことをしたのだ」


 真剣な顔でトオンが告げた。どうも彼女の中には自身が行った事への衝撃が残っているようで、まだ顔色が悪い。


「ミドウ氏の言葉を借りるのであれば、拙者は自分自身の作り出した妄想に囚われていたのだ。部下のヤゴウが嘘の証言をするはずがない。気性の荒い魔人族なら町行く人を襲うこともあるだろう、とな。はじめ、ミドウ氏の話を聞いたときは何のことやらと思ったが。考えようによっては、この騒動自体、拙者やヤゴウの妄想によって起こったものと言える」


 ふっ、とトオンは自身を顧み、自嘲的に笑う。


「拙者も自警団の長として責任のある行いをしてきたつもりだったが、とんだお笑いだ」


「我もそう思うぞ、実に滑稽なものよ! わっはっはっは! ほら、エニシも笑ってやれ!」


「しっ! 茶化すなって!」


 トオンは群衆に向かって歩き出したかと思うと、その中の何人かの手を取り反省の言葉を口にする。

 

「ご婦人。この度はおぬしの恩人にとんでもない言いがかりをつけてしまった。情けない限りだ。雑貨屋の店主、おぬしの勇気ある証言がなければ拙者はとんでもない過ちを──」


 などと本件の関係者に謝罪の言葉をかけた後、こちらを向き。


「ミドウ氏、拙者はそなたのような心の持ち主を心から尊敬するぞ。早くからアイネ氏の本質的な魅力に気付き、種族の差を乗り越えた愛を築いたのだな」


「アイネも言ってるが俺達は別に恋人じゃないぞ」


「いやそなたの心には愛がある。むろん、愛とは性愛という意味ばかりではないぞ?」


「……愛、か」


「少なくとも、その愛ある行動がアイネ氏を、そして拙者の過ちを正し、命を救ったのだ。心から感謝をしたい」


 トオンが頭を下げると共に、自警団の面々も頭を下げた。俺が彼女の命を救った? なんだか実感が全くわかない話だ。


「いや、確かにおぬしは拙者を救ったぞ。自分の正義を疑わず、無実の人間をさばき続ける人生など、死んでいるも同然であるからな」


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