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第15話

「その服とネックレスは明らかに似合ってないな」


 前から気になってはいたが、高貴な立場の出自だというにも関わらずファッションに無頓着すぎるのだ。人間達のファッションセンスで作られた装飾品は、同じく人間達が良く着る服装でないと似合わない。これじゃいくら高価な装飾品を身に着けても、チグハグ感が出てしまう。


「せっかくだし新しい服を買おう。店主、女性ものので新品のものは?」


「あっちにあるぞ」


「大丈夫なのか? 欲しいものを一品だけと言う約束だったはずじゃろう?」


 珍しく遠慮気味な様子を見せるアイネ。どうやら彼女もこの半年で、他人を思いやるということの大事さを知ったようだ。嬉しい言葉だがあえて聞かなかったことにする。


「お前がそんなこと気にするなって、さあ好きな物を選んでくれ。あまり高そうなのは困るぞ」


 婦人服コーナーへやって来たアイネは、しばし悩むような表情を見せたかと思うと、


「なあエニシ、貴様が選んでくれぬか?」


 そんなことを提案してきた。


「俺で、良いのか?」


「うむ。エニシのものじゃからな。エニシが一番納得がいく服を選ぶのが一番良い」


「俺のもの? ああ、俺の金で買うからって事だな?」


「他にどんな意味があるのかのう?」


 キョトンとした顔を見せるアイネ。まったく、これが天然じゃなかったら末恐ろしい女だ。 


 少し考えた結果俺は、いつもアイネが来ているような露出度の高い服ではなく、町娘が着るような服を手に取った。ひらひらとしたスカートを着たアイネなど、普段の彼女を知る者からしたら想像できないチョイスだがたまにはこういうのも良いだろう。


「どうじゃエニシよ。我、似合うか?」


 試着をし、俺の前に姿を現したアイネは文字通り見違えるほど美しかった。普段の乱暴そうな印象は薄まっているし、なんだか本人もどこか恥ずかし気でしおらしい雰囲気を発している。


「うん、似合う。とてもよく似合ってる」


 素直にそう口にすることに対し、若干の恥ずかしさがあったが、とても茶化せるような雰囲気ではなかった。観念する様に俺は彼女を褒めることにした。


「そ、そうか。流石は我じゃな、何を着ても似合う……!」


 ははは、と力なく笑うアイネ。喜んでもらえたのは良いが肝心のお値段が不明だ。彼女が試着する前に値札を確認しようとしたが、どうもそれらしきものが見当たらなかった。


 しょうがない。『鑑定』を使ってみるか。


『良家の令嬢服。価値5万イェーン』


 ま、まあまあなお値段だ。正直、想像よりも高い。……が、この店の販売額が5万イェーンであるとは限らない。


 しかし、他の商品で試してみたが『鑑定』と店の値札の価値の差異は微々たるものであった。これは覚悟を決めなきゃいけないかもな。


「あの、店主さん。この服、値段が書いてないんだけど……」


 一縷の望みをかけて、そう聞いて見ると。


「あーその服は……100イェーンじゃ」


 ひゃ、ひゃくイェーンだって? そんなことありえない。


「え? でもこんなきれいだったら5万イェーンくらいしますよね」


「お若い人、このわしが100イェーンと言ったのだから、そいつは100イェーンなんじゃ」


 困ったように笑顔を見せる店主。


「それに若いカップルに水を差す真似なんてできゃせんて」


「か、カップルじゃと! 誰がこんな男と!」


 この店に来てから一番の大声を出すアイネ。まあ、彼女からしたら当たり前の抗議だろう。心外だと言わんばかりに顔を赤くし、店主の言葉を否定する。


「おやおやあまりにお似合いのようじゃったから、てっきり勘違いしてしまったわい」


 キーキー騒ぐアイネを前にしても、子供をあやすように穏やかな顔を見せる店主。これが年の功って奴か。いや、そう言えばアイネは七百歳とか言っていたから人生経験の違いなのか?


 そしてアイネ抗議もむなしく(?)のらりくらりと店主の言葉に翻弄された結果、カップル割と言う恥ずかしい名目で件の服を購入することが出来た。


「あんたらの進む道には──」


 店を去る前、店主がそう声をかけてきた。


「あんたらの進む道には人一倍の困難が待つだろうが、しっかりと互いの手を離さぬようにな」


 真面目な口調だった。それも悲嘆にくれるような、暗い感情すらも籠っているように感じるものだった。


 人一倍の困難とはどういう意味だ? 店主は冗談を言ってるようでもなさそうだし、意味を聞こうとしたところで。


「だからカップルではないと言うておろうに。じゃが、感謝するぞ。エニシ、さっさと行くぞ、焼き肉が待ってる」


 とアイネに言われ退店することになってしまった。その時、俺の脳内をよぎったのは、


『この町のほとんどの人間は魔人族に対して同情的ですよ。ほんの一部の人間を除いてではありますが……』


 あの、ユーリの言葉だった。

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