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第14話

「ふははは! どうじゃ、やはり我にかかれば面接なんぞたやすいものよ!」


 数日後、朝日が差す青空の下、俺の隣でアイネが楽しそうに笑う。俺たちは『とある目的』ために、町の中心部までやってきていた。


「はーっはっはっは!」


「嬉しいのは分かったが、あんまり騒ぎすぎるなよ」


 そう釘さすと、なんだと! とこちらに振り返り、


「貴様こそ冷静すぎるのではないか! とうとうこの我のバイト先が決まったのじゃぞ! 本来なら町の者総出で祭りを開くのが道理と言うものじゃろう?」


「そんな道理はない」


 何を隠そう、今日はあのアイネが無事バイトの面接に受かったのだ。そして俺たちの『とある目的』とは。


「エニシよ。貴様が言ったのだぞ、バイトに受かった折は我の欲しいものを何でも買い与えると。今更待ったとは言わせぬからな?」


「まさかこんなすぐに受かるとは……ユーリめ変に不安なること言いやがって」


「む、あの者が何か言ってたのか?」


「いや、気にしなくていい」


 こんな喜ばしい日にわざわざ口にする必要はないだろう。そうだ、あいつも言っていたように今じゃ魔人族は公私共に認められた『人間』なのだ。バイトに受かることだって普通のことだろう。


「そんな事よりも、お前はどんなものを買いたいかしっかり考えてきたのか? 俺も男だ。吐いた唾は飲まないぜ」


 なんてカッコつけてみたものの、頭の中では今後の生活費のことで一杯だった。数年分の家賃を一括払いしてくれたきぃちゃんを始め、これまで入居者が払ってくれた家賃から逆算し、果たして本日はいくらまでなら使って良いものなのか。ここの計算が間違えれば俺の明日以降の食生活に関わってくる。


「さあ。大船に乗ったつもりで楽しんでくれよ」


 もちろん、そんな思考をアイネには悟らせる訳にいかないのであくまで自然体を装ってはいるが、内心はハラハラものである。


 他のメンバーはというと、俺と同様アイネのバイト決定を祝うため、バーベキューの準備をしている。肉を山ほど食べたい、と提言したのもアイネ本人だ。


「買い物の後、夜にはバーベキューが待っているとはのう。間違いない、今夜は最高の一日になるはずじゃ!」


 という感じで昨日からノリノリなのである。まあ、楽しみにしてもらえた方が準備する側も一層熱が入るってやつだ。


 それにしても、と俺は改めて興味深げに街並みを観察するアイネを見た。


 本人には決して伝えないが、俺の目からしてみても彼女のビジュアルは、はっきり言って人々の視線を集めるほどの美貌だ。獰猛そうな赤の瞳と髪、健康的な肉付き。出るところは出て、凹むところは凹むメリハリの利いたボディライン。


 その上、動きやすいのか何か知らないが妙に丈の短い、露出度が高い服を好んで着るものだから、男としては気まずいったらありゃしない。


 遅きに失した感はあるが、こんな美女と俺みたいなおっさんが並んで歩くことに、とんでもない場違い感がある。


「どうしたのじゃ? 考え込むような顔をして、嫌なことでもあったかのう?」


 無遠慮に顔を覗き込んでくるアイネ。高い身分であった頃の癖か、他人との距離感が妙に近い。彼女の行動からはおおよそ警戒心というものが感じられないのだ。


「な、なんでもない。あと、そんな風に顔を近づけるな」


「む、どうしてだ? 我、臭かったか? おかしな匂いはしないはずじゃが……ほら、貴様も嗅いでみろ我のワキ」


「勘弁してくれ!」


 どうやらこの女にはまだまだ教えてやらなければいけない人間界のマナーが山ほどあるようだ。

 

 しかし、思い返してみるとアイネと二人きりの外出なんてこれが初めてなんじゃなかろうか。サーニャはいつの間にかくっついてくるし、ハオも何かと理由を付けてデートしたがるし、ユーリには酒場によく連れだされるし。


 そんないつもの外出と違って今日は周りの人間から冷たい目で見られているように感じる。騒ぎ過ぎたかといつもなら不安に思うだけだが、ユーリの話を聞いた後では自然と違う可能性を考えてしまう。いやいや、ただの考えすぎに決まってる。


「おい、あれって例の──」


「ああ。少し前に『あぱあと』だかって変な建物に住んでる魔人族だ」


「あの角、間近で見るとおっかねえな」


 ひそひそと、だが聞こえるような声量で噂話をしているのが分かる。当然、隣を歩くアイネにも聞こえているはずだが、


「さあて、どんなものを買わせてやろうかのう?」


 ニコニコとそんな風な事を口にしていた。


「おおー。沢山のものがある! ここが雑貨屋というやつか!」


 アイネの気を引いたのは町一番の品ぞろえがあるという雑貨屋だった。みたところ部屋を彩るインテリアや古着、料理器具を始めとした生活雑貨と、目を見張るような高額商品はなさそうな雰囲気だ。


「これだけあればお気に召す品もあるのでは、お嬢様?」


 内心、ほっと胸をなでおろしながらうそぶく。町の人間なら見向きもしない物品も彼女にとっては初めて目にする珍品に映っている事だろう。世間知らずにも良い事があるようだ。


「おお! このキラキラ光るものは良い! 部屋に飾り、我の権威を示すのに使えそうじゃのう!」


 興奮状態のアイネがいるのは、装飾品売り場だ。彼女は展示されているネックレスを手にし、期待するような目をこちらに向ける。


「なあ、エニシ!」


「それが欲しいのか? オッケー買うよ」


 装飾品売り場に足を踏み入れた時はヒヤッとしたものだが、値札を見る限り高くて10000イェーン、安くて1000イェーンと非常にリーズナブルなものばかりで一安心だった。失礼かもしれないが専門店でもない以上、アイネの手にしたネックレスの値段も大したものじゃないはずだ。


「本当に構わぬのか?」


「おいおい、妙に遠慮がちじゃねえか。言ったろ、好きな物何でも買って──うわあああああああああああああああ!?」


 軽い気持ちで値札を見ておったまげた。

 

「に、にににににににに、にじゅうごまんイェーンだとぉ!?」


 数字にすると250000だ。明らかに他と比べてケタが違い過ぎる。あんまり変わらないって? なら俺の代わりに買ってやってくれ。一縷の望みをかけてレジにいた店主らしき老人に確認をしてみたが、


「ほっほっほ。これを見つけるとはお目が高い。これは当店でも指折りの商品での、あんたらのような違いの分かる目を持った客が来るのを待ってたんじゃよ」


 余計なサプライズをしてくれやがって……とは思うがアイネの言葉に値札も見ずに受け答えした俺が悪いのだ。しかし、25万イェーンかぁ。ローンとかしないと買えないよこれ。この世界にローンないけど。頑張れば買えない額じゃないが、こんな勢いだけで買えるものでもない。


 震える身体でアイネに視線を向けると、


「あのエニシが我のためにプレゼントを買うとはな、想像もしていなかったぞ。いやぁ我は貴様を誤解していたようじゃな。エニシよ、貴様は約束は守る男だったのだな!」


 俺の態度の変化に気づく事なく、純粋な賞賛を口にするアイネ。ああ、お前の純粋さが今は恨めしい。たが、ここで買わないという選択肢は初めから俺に用意されていないのだ。覚悟を決めろ!


「か………………買います」


 さらば俺の金。


「じゃあ、付けるぞ」


 さて、無事に会計を終えたものの、件のネックレスは一人で付けるには慣れが必要らしく、この場では俺がアイネの首に付けてやることなった。


「……どうじゃ?」


 少なからず緊張があるのだろう、遠慮気味に訪ねてくるアイネに俺は素直な感想を口にする。


「綺麗だと、と思うぞ」


「そうか──!」


 喜びの声を上げたアイネを前に、俺は言葉を重ねる。


「だが──似合ってはいないな」


 アイネの喜びに、深い影が落ちるのを見た。


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