戦争の発火点と相手の力
かつては王国だったウルム共和国の存在は本来は連合国の悩みの種になるべき国である。
「革命は王政打倒を叫んでいたが連合国はエレガスがウルムに攻め込むと連合国に加盟することを条件に革命政府の維持を認めた。」
「付け足すなら連合国はエレガスに901星系に軍を駐留させてウルムの王族を元老院に向かい入れるということもしている。」
そうジェニファーさんが付け足してくれた。
「まさに日和見主義の典型みたいに方針がブレブレな政策をしていくことになる」
その後、時の帝であるテオドシウス帝はウルムから従来通りに軍に人を送るように要求している。問題は送られた人材たちで送られた先にいた王政主義者たちに簡単に懐柔されて王政復古主義者になった。
「まぁ当然の帰結だけど、当時はテオドシウス帝の改革で連合国は景気が上向いており、その成功を目にしてウルムから来た人々は呆気なく共和制の間違いを認めた。」
「連合国は奴隷制も廃止していたし、ウルムの望むものを何でも提供できた、安全保障に置いても重要な国となればそうなる。」
連合国との関係を強化して結びつきを強めるのであれば王政を復活させる方が良策であり、ウルムの政府は革命の余波で不安定だったから当然のように王政復古が進むかのように見られた。
「だけど王政は復活しなかった。追い出した王家を復活させることでしか王政を復活させることに反対の元老院議員が多かったから」
「考えて見れば当たり前ね、宇宙教的にはエレガスは司教座で長く元老院に議席を持つ国なのだから」
元老院には旧王家もいる訳だし、彼らの人的なネットワークの繋がりが強く、元老院は頑なにウルムの旧王家の復活を要求するようになった。
「ウルムは連合国の支援を受けて工業国として転身して豊かになった。」
「その代わり、エレガスに農作物と鉱物資源を輸入するようになったけどね」
相互依存が強まった為か両国は関係を復活するようになった。902星系は元々はどちらの領域かハッキリしなかったがエレガスがウルムに攻め入る時に橋頭保として基地を建設して以降は発展するようになった。発展時にウルムから大量の移民が流れて来たが特にエレガスは拒むことなく、両者は共存した。
このまま両者が共存出来ていれば良かったのだが…テオドシウス帝の後にユスティニアヌス大帝が即位した。彼が大帝なのは地球侵略したからである。しかし、地球侵略の成功はユスティニアヌ大帝を調子づける結果となり、増長したユスティニアヌス大帝は王の財産だけでは飽き足らずに国家の財産から自らの文化政策(宮殿建設、芸術品の作成、美しい街並みの整備など)の為にお金を出すように要求したためにカルケディウス総参謀総長を押す元老院に間違いを指摘され、最終的には国会がユスティニアヌス大帝に不信任案を出して可決させて失脚に追い込んだ。
これにより、カルケディウス総参謀総長が現帝となったのである。その後、カルケディウス帝はユスティアヌス大帝の政策を受け継ぎつつ軍備増大に走ったのである。この軍備増大は軍を自らの理想的な軍隊にするための予算増額でしかなく、『侵略の意図の無い空虚なもの』(痛烈な青葉の批判で青葉は『平和主義的な軍拡』と揶揄している)であったが周辺の国々が連合国に警戒を強めるのは必然であった。
「アルカンディア共和国(以降『共和国』とする。)はエレガスを自国の安全保障のために領土として狙うようになった。」
「『共和国』は領土こそ連合国より小さいが人口が多く強大な力を持っているのが難点だな」
アルカンディア共和国は名称の通り、アルカンディア人の国である。同一宗教で途中までの歴史を共にしている国である。違いは向こうの方が宇宙主義が強く、地上に住む人間を差別していて奴隷にまでしている点である。それと共和制を採用している点であるが古代アテネのように一部の人間だけが民主主義を享受する国家である。宇宙に住んでいる人間に対しても露骨な差別がある。階級が無いことが逆に差別と格差を助長している典型的な国家である。
「あの国は人口もだが…経済力が何気に高いのが脅威な国である。」
「向こうの方が奴隷制を採用しているのに国民徴兵制だから兵士の数は連合国より多いからな」
連合国が税金に比べて商取引など貿易の利潤からの収入が多く、階級制度で平穏が保たれる分、兵士の供給先が少ない、徴兵される兵士は自由民階級であり、彼らは徴兵期間中は戦時こそ前線に行くが平時は中央に近いところに駐留している。その為、直ぐに動員するには時間が掛かるため戦力としては期待できない部分が大きい。(動員するのに国会の承認が必要なところも面倒である。)
基本的には小学校並みにある兵学校を始めとした軍事系の学校から上がってくる兵士と王族、貴族、武士などの兵士が主体になりやすいのが現状である。(王などの特権階級が温存されるのも面倒な戦争の犠牲に彼らが積極的になるのを人民が期待しているからとも言える。)
これに対して『共和国』は税金が大部分を占めており、国民全体に強制的な徴兵を課すことで軍隊が維持される典型的な国民国家である。奴隷は徴兵されないとはいえ、元の分母が大きいことも相まって軍隊の数は多い。
経済的には連合国より低いが向こうの方が品質は低いとはいえ宇宙農業の生産量が凄く高いために人口が多い。技術的にも連合国より高い面が多くあり、侮れない存在である。
話はズレるが連合国の宇宙農業は軍の独占である。というのも連合国は国民が地上産の農産物を食べている人々であり、経済の繁栄の為に軍は地上産の農産物を購入していない。その分宇宙農業で生産している。生産性が高く、品質は兵士の為に極めて高くなっている。しかし、コストが高いために価格競争力では地上産に負けるために軍が管理して保護しているのが現状である。
『共和国』に比べると地球(恒星)に近い場所に都市を築き、コロニーに住むのは嫌う国民性の為に人口の絶対数では『共和国』に負ける。宇宙と地上の行き来は活発で宇宙人と地上人の垣根が無いに等しいのが現状である。
また、話はズレるが十年前に地球人が考えていたより遥かに連合国の要求してきた条件は楽なものであった。それを説明せずに帝国主義的に侵略してきたのは許せないが僕は宇宙に住むのが夢だったので特に恨んではいない。日本は早期に降伏して文化的に近いミレトスに移住して優遇されているので日本人として考えても最良の策だったと信じている。
「そんな『共和国』が数年ほど前からウルムに接触して軍事支援をしているのは公然の秘密になっている」
「おかげでウルムは「自国の兵士は少ないので自国の防衛に回す」とか言って連合国に兵士を送っていない」
「他にも明らかな統合条約に違反する行為をしているのに連合国は『ノホホ~ン』としているからな」
「…君の批判は痛烈過ぎて引くね、兵士たちからウケているのがよく分からん」
「ウケているのか~それは良かった。」
「…」
ジェニファーは思うのである。こいつも大概『ノホホ~ン』としていて鈍いと…
兵士達の間では青葉は既に有名人になりつつある。コイツの意見書や兵器提案は元々他のやつと同じで公開されていたが数が多いのとコイツ独自の解釈というか痛烈な批判魂が若い連中を中心にウケている。
コイツもいい年だからか若さの強がりが若い兵士から見ると若くない人が自分たちの代弁者になっているように感じられるようになってきている。そのため、いつの間にかネットに『青葉氏の意見書&兵器提案と語録』などという『まとめサイト』が立ち上げられている。これがユスティア辺りが仕掛けているなら良いのだが…自然発生的だと質が悪いな…『白風』志願者達は間違いなく艦長の経歴も調べているので多かれ少なかれ青葉に惹かれた人々の集団とも解釈出来て困るのだ。
「エレガスと『共和国』との間に海があるのが救いだが…本格的に攻められたら終わりだ」
「呆れるのは君の提案した作戦だが…その前にまずは902星系を何とかしてくれ」
902星系は今現在、危険な状態にある。かつては都合の良い労働力として受け入れたウルム人がエレガスと対立しようと画策し始めている。また、『共和国』との軋轢が生じ始めるとエレガスは連合国から支援を受ける一方でウルムには背後を突かれたく無いために守勢に回っているのが現状である。
「ウルムはエレガスが弱気なのを良いことに902星系に基地まで作り出している」
「だから一刻も猶予はないんだぞ!」
ここでジェニファーが苛立つ感じで叫ぶ、無理も無いが彼女は完全に戦闘態勢に入っている。一度任務を言われたら完遂しないと気が済まないようだ。しかも、情報部は本気である。今回も準備に積極的に加担している。インノケンティウス元老議員より作戦への支持という意味では強いとすら言えるほどである。
「分かっているが…様子は見つつ判断する必要がある」
「おまえ…今更本気じゃなかったとか言わないだろうな?」
「…」
「もし、そんなこと言ったらマードックの奴に頭をぶち抜かれるぞ!!」
「やっぱりそういう意味で来ているのか…」
「当たり前だろ、マードックは間違いなくインノケンティウス元老議員と通じている」
「それは怖いね」
「おまえの支持勢力は一つではないが一番今ヤバいのはインノケンティウス元老議員なのは間違いない。
彼は親友である司教と自らの支持勢力である宇宙教の聖地を守る気で心はいっぱいだ!!それこそ十字軍をする気になったウルバヌスのようにな!!」
「肝に銘じておくよ」
そう言うとジェニファーは黙って僕を睨みつけてくるのである。「友人としての忠告だからな!」という感じがコミュ症の僕にも分かる程度には相当ヤバい雰囲気を出している。
人民=階級関係なく全ての国民という意味
国民=特権階級以外
海=星とか小惑星が無い空間で特に広い場所をいう。こういう空間は補給がしにくく航行が大変なので国境線になりやすい。
連合国という名称に統一することにしました。帝国という名称は今時の小説に流布され過ぎているのとスターウォーズみたいなアメリカの偏見が含まれていて良くないと考えました。
兵士全体の軍服はドイツ系があまりに多いのでイタリア系をイメージすることにしました。カッコいいというよりは派手でファッション要素の高い制服デザインです。
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