第十話 高原の駅 -5- バラバラに伝えられる鍵言葉 白手袋の運転手の激走
私達はクラブハウスに移動した。
まずは伊之助が着替え入っていった。数分。出てたときは、いつもの顔とは違うなにか違う顔付き、初めてあったときの顔付き、決意に道田顔付き、さっきまでの車酔いに怯える彼でなかった。
次に私の番になった
クラブハウスというか事務所の中の部屋に私だけ通された。簡素な事務机。その上に黒電話。突然電話が鳴った。誰も取らない。しかたなく撮った。
「遠きもの時和金哉だ」
「えっ」
最初あのスパムのメッセージかと思ったあれ
それから巻き込まれた発端
「星の民の姫君、星野留美」
「なによ勝手に巻き込んで」
「確かに勝手かもしれない、ただ君でなくてはできないミッションなのだ」
「なんの了解なしにはじめるなんて」
「それは未来の君に言っておくと良い。いや過去か、もう一人の君か。時空はあらゆるところに遍在している」
「それよりも、本当に元に戻れるの」
「君達次第だ。伊之助もな」
「君には、洞察力や推察力があるようだ。伊之助には別のことを伝えてある」
「なんで」
「これから更に困難が訪れるかもしれない。そのほうが安全だからだ」
「じゃあ彼の目的は」
「さあ。君も彼に聞かれても君へのミッションは伝えないように」
「君への鍵言葉を伝えようパズルのようなものだ。導かれるとパスワードが必要になる。最初から今まで体験した中にそれは含まれている。それと彼の鍵言葉、いや行動と照らし合わせて一つとなるだろう。成功を祈る」
ブチっと無慈悲に切れた。ナニもないじゃん。ヒントとか。
とりあえず服も、もとの時空のものに着替えたのので外に出るとも車があった。
「さ、二人共終わったな。あとは頼む」
外に出ると私達の前に自動車が止まっていた
ただ初めてまともな車だと思う多分。
古いような形をしているけどなんか社長の車のような感じもする。座席はフカフカで心地よい。
ただなんとなくエンジンの音が太い気もする。
運転席に座る白手袋の男はミラー越しに二人を一瞥し、動じない声で告げる。
「運転士の星名です。安全運転を努めます。V8エンジンがやんちゃなところもありますがうちの社長の趣味でして。はい。それでは、シートベルトをお締めください」
クラッチが繋がれた瞬間、大人しい旧車の見た目からは想像もつかないV8ー換装エンジンの咆哮が轟いた。派手なホイルスピンとともに白煙を上げ、清里の美しいペンション街を猛スピードで爆進し始めた。
「んぐっ」
「失礼しました。ちょっとした暖気運転です」
その後は極めてスムーズな走り出しだ。野太いエンジンもなめらかにまわり、飼い慣らされた怪物ののようだった。このまま平和なドライブになるかと思っていた。
後方から何かが近づいている。広大な畑のうねを荒々しく押し潰しながら躍り出たのは、「ぺんしょん みるきぃうえい」ファンシーなロゴを側面に躍らせたペンション送迎用の元マイクロバスだった。そいつを大胆に文字を赤いペンキでバツをつけ、なにか不気味な改造を施して、戦闘力を高めている。
「いけませんね」
乗用車顔負けの乱暴な運転で蛇行しながら、リアに体当たりせんばかりの勢いで猛追してくる。
迫り来る暴走バスに対し、白手袋の運転手は眉ひとつ動かさず、センターコンソールの無線機の手持ちマイクをスッと手に取った。
「星名です。今予定通り送迎中ですが、別のお客様がお見えになったので、対応をお願いします。……昼は天丼がいいかな」
なにかの暗号なのか。無線の向こうから短く「了解」とノイズが混じった声が返る。
「このシーラカンス、本気をお見せしましょう」
白手袋がシフトレバーを叩き込み、別物のモンスターエンジンを全開にする。見た目が旧車とは思えぬ怒涛の加速で、ただどういう訳か乗心地は抜群で、伊之助は、普通に黙っている。
「最後の仕上げです」
直後、前方の農道から地元の軽トラ軍団が一斉に躍り出た。軽トラたちは荷台から巨大な干し草ロールを路上へ次々と転がし落とし、暴走バスの進路を完璧に封鎖。回避しきれないマイクロバスは干し草に乗り上げ、そのままコントロールを失ってレタス畑へと突っ込んで立ち往生した。
「駅に到着いたしました。お忘れ物はありませんか。お気をつけて」
伊之助は酔いはしていなかったが、ぽけっとしていた
呆然としたまま車を降りる私と伊之助。やがて時と空間の変化が始ま目。私たちだけが知っている、いや星の民たちだけが使える時刻表なのか。ただ、私たちはいつ則次列車が来るかははしらないのだ。
ホームへ列車が滑り込んでくる。
最近見ないベージュとあずき色っぽい赤の特急。それも気動車だ。流線形というか、前はなにかブルドックのような顔つきに見える」
「行きましょう!」
伊之助の手を取り、車内に入る。車内で息を整えながら窓の外を見やると、遠ざかる駅前で、煙を上げる追手を背に白手袋の運転手が静かに一礼していた。そのシーラカンスは再び車内からは聞こえるはずがないが、図太いV8の重低音を轟かせ、高原の彼方へと去っていったように見えた。
普通の景色が溶け始め、暗黒が訪れ、光線が乱舞する時空跳躍のトンネルに入る。次の目的地自分たちのあの駅のはずだ。そうであってほしかった。




