第22章-気力と根気-
「では、せっかくネタばらししたので、今度は攻守逆転としましょう」
天真爛漫の笑で告げてくるが、この神が攻撃してくるなどもはや地獄ですらある。
「あ、そうそう。私が攻撃するほうで、真剣を持っていると今の矛人さんなら殺しかねないので木製の剣に変えましょう」
さらっと殺してしまう宣言をされてしまうあたり、今の矛人のレベルじゃ到底敵わないのだろう。
頭でわかっていても、改めて力の差を見せつけられると、やはり神は神なのだなと実感する。
アテナが訓練中の聖騎士に本当に木製の剣を2本持ってくることを頼むと、すかさずわっせわっせと2本抱えて持ってきた。
「ありがとうございます」
そう、アテナは微笑みながら告げるが、戦いの神でもある神に木製の剣だろうが剣を持ってくることを頼まれるのだ。そりゃビビるだろう。
「ありがとうございますだなんてそんな・・・!」
そういいながら小走りでさらっと逃げ出す聖騎士。
「あははは・・・」
アテナは、もはや苦笑である。びびって逃げられたらそりゃそうなるのだが・・・
「ではでは、攻守逆転としましょう!覚悟してくださいよぉ、む、と、さんっ!」
やる気満々の顔に、もはや恐怖すら覚える。
考えてみて欲しい、神にやる気満々で覚悟してくださいなんて言われたら、恐怖でしかない。
だが矛人は恐怖3割、好奇心6割、残りの1割は楽しみとして、一対一を再開する。
アテナの言われた通りに、まず相手の目を意識して防御する。
だが矛人は、アテナの視線と剣の速さに追いつけず右腹、左の甲、左太ももと防御ができず木製の剣で次々と攻撃される。
「くっ、慣れねぇ・・・」
「何回死んでるんでしょうかね」
もはや、体中がアザだらけではあるのだが、矛人は修行をやめない。コアトリクエもそうだが、ラードに勝ちたいという意思から来てるのだろう。
気づいたらもう、暮れの六つ時であった。
夕日が映え、コロッセオ状のこのドームにオレンジ色の光が神を崇めるかのように差し込む。
昼食を挟みながらも数時間、弱音を一つも吐かず努力したその姿勢にアテナは愛おしさを感じた。
「今日はもう終わりにして、明日またやりましょう」
「もう終わりかー、くっそー!」
「はははっ・・・」
さっきは愛おしさすら感じたが、まだ続けようとしてたところを見ると流石に苦笑が漏れるくらい呆れてくるものだ。
体は痛々しいくらいボロボロなのに、底なしの体力と続ける精神力は、神ですら探してもいないのだろう。
自力で歩こうとするが、体の内側からズキズキと反動がくる。
「痛ってぇ・・・これ明日までに治るかね・・・」
フラフラになり体の限界でありながらも、明日の修行のことを考えるあたり本当の馬鹿なのだろう。
途中アテナに肩を貸してもらいながらも、なんとかお城の食事場にたどり着くとそこにはまた、矛人の様にボロボロになった聖音がニーズヘックに優しく包まれながら横たわっていた。
「あ、兄さん・・・おかえりなさい」
頑張って声を振り絞りながら言ってるのか、プルプルと体中震えている。
この様子を見ると、もしかしたら矛人より酷いのかもしれない。
ゼウスから、聖音の修行を受け持っていると聞いていたため「おう」とだけ返事をすると、どうやら麗奈がかえってきたらしい。
今までのように、普通に食事場にやってきた麗奈がまず驚いたのはニーズヘックがいたことである。
「ただい・・・ぎゃぁぁぁ!?・・・?あっ、ニーズヘックね。なんだ驚いたじゃない・・・っ!?」
そして次に見たのはありえないほどにボロボロになった2人である。
「ちょ、何があったのよあんた達!え!?なに!?敵なのっ!?」
今まで、こんなにボロボロになるふたりを見たことなかったため、慌てふためく。
一日会わず、帰ってきたら兄妹2人がこの様だ。
驚かないはずがない。
その様子を見て面白がっていた矛人だが、落ち着かせようとし
「修行でちょっとな」
とだけ告げた。
「あー、修行ね。それなら仕方ないわね」
「ですよね」
「ンなわけないでしょっ!」
聖音も相槌を入れるが、どうやら効果がなかったらしい。
どうやら相当心配してるらしい。
聖音と矛人は目を合わせ苦笑をする。
そして同時に、兄妹でよかったと実感する。
「そういえば、姉さんは順調なんですか?」
聖音がプルプルしながら話題を切り出す。
正直それは矛人自信も気になっていた事で、言おうと思っていた所だ。
「んー、そうねー。順調なのかしら?多分1週間後までには間に合うだろうし、大丈夫よ」
「1週間かぁ」
麗奈の答えを聞き安心したが、1週間後というキーワードに反応する。
「そうですよね、1週間しかないんですよね・・・」
聖音も未だにプルプルしているが、時間の少なさを改めて実感する。
気を失って4日、妹達は心がボロボロになり4日。
そして修行と旅で2日。
計6日。
そう、もう6日である。
封印が解けるまで2週間、そして現在は6日目。
猶予はたったの8日なのである。
すると麗奈が軽快な声で告げた。
「なーにしんみりしてんのよ、あんた達らしくないわね。私の兄妹が間に合わないわけないでしょ?自身持ちなさいよ。」
「・・・おう」
「・・・はい」
時々、この無駄な自信に助けられる事がある。まさしくこのようにだ。
そして矛人はまた、兄妹でよかったと改めて実感するのであった。
ご飯を食べ終えた途端、麗奈は準備をしまた出ていこうとしていた。
「もう行くのか?」
「そうね、まあ・・・お兄ちゃん達の顔が見たかったから帰ってきただけだし・・・」
麗奈は頬を赤らめながら告げた。
「元気でやれよ、次会えるのは何日だ?」
「あったりまえじゃない、多分戦いの時になると思うわ。」
「そうか」
それだけ返事をすると、麗奈は
「んじゃ」
とだけ言い、お城を離れた。
「さーって、明日も頑張りますか」
今はそれだけを決心し、前を歩み始めた。




