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右や左の国士様  作者: 隣之 芝生


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第7話 私の恥(前編)

「よう、チャンプ。驚いてくれ、今日の防衛戦、スペシャルゲストがやってくるんだ。大会4連覇を賭けて、最高のマッチメイクが出来たと思うぜ」


 会場の提供者であり、会の主催者でもあるマスターの呼びかけに私は困惑した。


「ビーチフラッグ(1対1遊戯)に参加者がいるってことですか」


 会場である喫茶店の各テーブルを見渡し、見知った顔ぶれを確認しながら、私は危惧していた事態が現実のものとなっていることに危機感を覚える。

 いつもは5、6人集まれば上等という具合なのに、今日の盛況ぶり――といっても漸く二桁を超えるという程度なのだが、誰もが、それぞれの想いを込めた視線を私に向けているように見える。


「どこのサークルですか? 遠方から、わざわざ来てくれるんだったら、お礼の菓子折りぐらい用意してきたのに」


 スペシャルゲストがやって来るという口ぶりからして、親和性は高いが、遠隔地にあるために交流することの少ないコミュニティへ参加者を募ってくれたのだろうと当たりを付けたのだが、私の言にマスターは手を振って否定する。


「そんなんじゃない。本当にスペシャルなゲストさ。俺たちが用意できるような菓子折りなんて恥ずかしくて渡せないようなビッグネームだよ。忙しい人だから、到着にはまだ時間がかかる。キャンペーン(団体遊戯)をしながら待って、挑戦者が着き次第、チャンプの引退試合を始めるってことで皆の了承はとってある」


 急用、急病、偽りの理由をでっちあげて、この場から逃げ出したいという衝動が心の中で急速に膨れ上がるものの、皆の暖かな視線に抗って嘘をつく胆力が私には無い。

 流されるままに参加したキャンペーンで、動揺を抑えきれない私のプレイングは出鱈目である。


「今、大きなトラックが店の前を通り過ぎて、この安普請の建物が揺れたからさあ、もう一回、振りなおしてもいいんじゃない?」


「安普請とは失敬な。稼ぎ時の土曜日に店を休みにして会場を提供してるってのに。地盤が悪いんだ。店の所為じゃない。でも、もう一度、ダイスを振るのは賛成だ」


「ねぇ、ビーチフラッグの時には、このプレイングマットの下に何かクッションになるものを、もう一枚、敷かない? アウトドア用のマットレスを車に積みっぱなしにしてるんだけど、それでも良ければ取ってくるわ。私たちのチャンプの初防衛戦で、今のはノーカンなんて、アタシ、言いたくないわ。さあ、振って」


 スペシャルゲストを待ちながら各テーブルで始められたキャンペーンは、気の置けない仲間同士の遠慮のない物言いとは裏腹に、友愛の情がこもっている。


 コミュニティによって異なることもあるが、ヴィックスの遊び方は大別して2通りある。ゲームの参加者全員で、それぞれが演じる登場キャラクターが一人でも多く、好ましい結末を迎えられるよう工夫を凝らすキャンペーン(団体遊戯)と、各人が用意する5種のキャラクターを盤上で競わせ、例え1種でも、相手より早く物語の結末にたどり着かせた方を勝者とするビーチフラッグス(競争遊戯)である。


 そして、このコミュニティでは、私のためにビーチフラッグス(競争遊戯)を1対1で競い合うビーチフラッグ(1対1遊戯)と定義している。

 促されてダイスを振りなおした結果、出目は皆の望んでいた数になり、私の担当するキャラクターの物語は比較的無難な展開へと歩みを進める。


 馴れ合いと言ってしまえば、それまでだが、このぬるま湯で満たされた卓は、架空上のお遊びとはいえ、参加する各人の願望を表現する場である。

 家族の看護や介護、生業の不振や多額の負債、パートナーの不貞や浪費癖、立ち入って尋ねるようなことはしないが、仄聞するかぎり、この場に居るものは皆、何かの課題を抱えており、ヴィックスのキャラクター群に我が身の境遇を重ね合わせ、物語の結末のあるべき姿に強い拘りを持っている。


 そして臆病な私の迂遠な物言いは、皆の憶測と、それを口には出さぬ配慮の末、居心地の良い温室に大きな波風となって返って来た。

 スペシャルゲストなる人物が到着し、ビーチフラッグが始まれば、私の個人部門4年連続優勝を賭けた初防衛戦となる。そう、過去3年、私は不戦勝による栄誉を授けられてきたのだ。

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