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右や左の国士様  作者: 隣之 芝生


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第59話 己の欲せざることは

『最初に言っとくけどよう、お前、まだ分かってないぞ。オマエは俺で、俺はオマエだけど、俺達だけじゃないぜ。全員、俺なんだ』


 お互い取り出したスキットルから酒精を含みながら、気心の知れた飲み友達のように戯言を交わす。


『魂は一つだ。俺達は牢獄の中に居て、独りで、ごっこ遊びをしている。一緒に遊んでくれる友達の居ない可哀そうな俺達だ』


 私は嘘吐きだから、私の言うことを信じない。


『……悪ぃ、今、ちょっと狂ってた。俺に直結するとオマエ役の俺は完璧に狂うから証明するのは止めとく。俺は俺だけには甘いからな。信じないだろうけど聞けよ。湖畔の女神像って憶えてるか? ただの阿婆擦れのくせに、嘘が上手くて、イイ感じに自分を飾り立てたもんだから、恋多き魅力的な女性って逸話だけが残ったアレな俺だよ。そんで、オッ死んだあとに銅像なんか建てられちゃってよう、恋愛成就の御利益があるなんて後出しの箔付けしたせいで、下心で頭が一杯の俺達が拝みに来る観光スポットになってるよなあ』


 我ながら下種な物言いだが、いかにも私のしそうな論評だ。


『無駄に手先が器用で粘着質な俺が自分の性癖に合致する最高にエロい銅像を作ってよう、ムッツリスケベで変態な沢山の俺達が夜な夜な忍び寄っては銅像の乳とか尻とか撫でまわすせいで、そういう局部だけ、いつもピカピカに光ってる我らが故郷の恥ずかしいアレだよ。そして、それは全部、俺のやったことだ』


 不思議なスキットルだ。いくら飲んでも無くならない。


『おう、心配すんな。好きなだけ飲めよ。飲んでる時だけは陽気で友好的だろう、俺達は』


 私と私は息もぴったりに酒精をあおる。


『股が緩いのも、粘着質なのも、変態なのも、頭がお花畑なのも、演じて見せろって言われれば、やり切って見せる自信があるだろう? だって、俺達、そうだもんな。演じなくても素のままでイケるよな』


 性自認が男性の私としては、男性との恋愛遍歴を重ねるところは実感が湧かぬが、他は認めてもよい。


『ずっと疑問だっただろ? 魂の数が足りないって。日本だけとってみても土器を捏ねてた頃は20万人程度、江戸時代には3千万人、現代は1億2千万人と仮定して、輪廻転生って無理じゃねえのって。答えは簡単だよ。それぞれに別個の魂が必要なわけじゃない。魂は一つで、俺は一人で全員を演じているだけなんだよ。ただ、ちょっと今の俺は特別な俺を演じているせいで、俺は全ての俺の生涯を体験する。拒否はできない。憎み、憎まれ、惜しみ、惜しまれ、殺し、殺され、愛し、愛され、全ての苦しみと喜びを同時に浴びて、狂って、正気に戻り、また狂って、また正気に戻っているのか、もう分からんよ』


 それで私を呼んだのか。


『そうだ。もう代わってくれよ。俺のやり方が許せないって言いに来たんだろう? 散々、依怙贔屓してやったっていうのによお。でもオマエには、ちょっと特別な俺になってもらってるから、出来るかもしれないぜ。オマエの思うとおりの俺になってくれよ』

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